医師国家試験問題解説 116A39 Darier病

20歳の女性。腹部の皮疹を主訴に来院した。1か月前から腹部に多発する皮疹が出現し消退せず持続している。掻痒はない。母親も15歳から同様の皮疹が認められ、Kaposi水痘様発疹症をしばしば発症する。

発熱はない。頸部、腋窩、肋骨部、乳房下、腹部、鼠径に暗褐色の丘疹が多発している。患者と母親にATP2A2遺伝子の同じ部位の変異が同定された。腹部の写真と生検組織のH-E染色標本を別に示す。最も考えられるのはどれか。

主訴:掻痒のない腹部の皮疹。

キーワード:本人と母のATP2A2遺伝子異常、10-20代での皮疹、皮疹の分布は「こすれる」場所

選択肢は以下のとおりです。疾患名を問われています。本文には、遺伝性疾患を匂わせるキーワードが複数散りばめられています。画像の皮疹は褐色で扁平、多発しています。病理は角層から表皮が写っています。ですから角層ないし表皮を主座とする遺伝性疾患を選択肢から選べばよいということになると思います。

a. Sweet病

b. Darier病

c. Kaposi肉腫

d. 尋常性天疱瘡

e. アトピー性皮膚炎

ちなみに、変異(mutation)という言葉は時にnegativeな意味合いを含むことがあるため、ゲノム医療の分野では、中立的な用語とされるvariant, alteration, change(バリアント、変化)などを使用するのが好ましいという意見があります。political correctのひとつですね。

選択肢を吟味していきましょう。

a. Sweet病は発熱と白血球数(好中球)増加、関節痛を3兆とし、顔面や頚部に滲出性紅斑が出現します。急性熱性好中球性皮膚症とも呼ばれます。真皮乳頭層の浮腫と、真皮に好中球を主体とした炎症性細胞浸潤がみられます。国家試験的には、血液腫瘍(MDS, 白血病)や内臓悪性腫瘍の合併をすることがあるので全身検索をする、という点で重要な疾患です。実際には特発性(原因が不明、悪性腫瘍の合併がない)であることもあるようです。

b. Darier病が正解になるわけですが、首や腋、下腹部など、こすれる場所に写真のような皮疹が出来ます。ケラチノサイト(表皮有棘細胞)のCa2+ポンプをコードするATP2A2変異(変化)により発生する遺伝性の皮膚疾患です。常染色体優性遺伝の形式を取ります。10-20代の若年者に発生するようです。Ca2+ポンプは細胞間結合に重要なデスモゾームに関与するため、Darier病では細胞同士の接着ができず、レンガが崩れるような裂隙形成がみられます。

c. Kaposi肉腫は中間悪性型の血管系腫瘍です。AIDSや医原性(ステロイドなど)の免疫抑制状態にあるひとに生じる、HHV8の感染を基盤とする腫瘍です。血管系なので表皮よりも深いところに生じます。赤血球を入れたスリット状の間隙や、紡錘形細胞が増殖する像がみられます。免疫染色で、CD31, CD34(血管内皮細胞), D2-40(リンパ管内皮細胞)などに陽性を示します。また、HHV8感染をHHV8の免疫染色(別名LANA1, LNA-1)や分子遺伝学的手法を用いて確認することで、よりその疾患の確証が得られます。後ほど自験例の画像をアップします。

d. 尋常性天疱瘡は口腔粘膜などに発生する弛緩性水疱(表皮下水疱)が発生します。Dsg3に対する自己抗体が原因です。多くは後天性の自己免疫性疾患です。

e. アトピー性皮膚炎は、アトピー素因、皮膚バリア機能の低下を背景に皮膚の炎症が起こる疾患です。炎症の程度や時相により、組織像は様々です。

さて、本問題も病理像が分かる必要はなく(提示画像は極めて典型的ですが)、Darier病が遺伝性の皮膚疾患であることを把握していれば解ける問題です。しかしながら、近々医師国家試験のガイドラインが改定予定ですが、残念ながらこのような知識問題は出現されにくくなる傾向にあるでしょう。CBTで先に問われるようになることはあるかもしれません。正答率が低かった問題のようです。これが合否を分ける問題だとは微塵も思いません。

それよりも、アトピー性皮膚炎やDarier病では皮膚のバリアが破綻し、Kaposi水痘様発疹症を繰り返すということのほうが重要と思います。HSV-1(HSV-2)感染による水疱形成がみられ、自分で擦ったりすることで病変がさらに多発、広がってしまいます。抗ウイルス薬で治療します。