80歳の男性。左側頭部から左頬部の皮疹を主訴に来院した。3か月前に左側頭部に紫紅色斑が出現した。次第に拡大、隆起し、出血するようになった。10年前から心房細動で抗凝固薬を服用中である。皮疹の契機について思い当たることはないという。左側頭部に皮疹を認める。鱗屑は認めない。左頸部リンパ節を触知する。左側頭部の写真を別に示す。最も考えられるのはどれか。

主訴:拡大・隆起傾向にある頭頚部の皮疹
キーワード:高齢、頭頚部の紫紅色の皮疹、拡大・隆起傾向あり、皮疹の契機がわからない、鱗屑がない、リンパ節を触知する
選択肢は以下のとおりです。今回も疾患名が問われています。病理像は出てきていませんが、特徴的な病歴と肉眼像です。過去にも血管肉腫は複数回出題されています。
疾患に遭遇する頻度は少ないですが、悪性と診断できないことで重大な転機を招いてしまいます。発見時にすでに進行していることが多く、根治が難しく予後の悪い疾患です。適切に診断したから患者の転帰がよくなるものとは言えない疾患ですが、見逃しは危険です。
問題文から悪性の可能性を示唆する文言を十分に抽出しましょう。
a 血管肉腫
b 有棘細胞癌
c 老人性紫斑
d 血管拡張性肉芽腫
e 抗凝固薬の内服による紫斑
選択肢を確認していきましょう。c, dは良性の疾患です。医師国家試験において、これらが答えになる問題が出題されるような事態はないと考えて差し支えないと思います。
a(血管肉腫)と b(有棘細胞癌)はいずれも悪性です。有棘細胞癌は表皮の扁平上皮癌ですので、角質に異常(本文では、肥厚した角質を示唆する鱗屑がそれにあたります)が出る可能性が高いです。
そうするとaとe(血管肉腫か、抗凝固薬による紫斑か)との一騎打ちになります。e(紫斑)は抗凝固薬を飲んでいるという一点のみがそれを支持します。皮疹の契機の自覚がないので否定的と考えるのが妥当と思います(実際には、高齢だから認知機能の低下を考慮する必要があるのかもしれません)。また、隆起というキーワードも、血腫よりも腫瘍を考えたいです。組織像は後ほどアップします。
Take home message:高齢者の頭頚部の紫斑をみたら、血管肉腫の可能性を忘れないこと。