115D27, 115A71 代表的な肺癌の各組織型の細胞像の提示

肺癌の細胞像の提示、解説編

画像を再掲します。順番に腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌です。順に見ていきましょう。

腺癌を理解するのが実は一番面倒かもしれません。後に出てきます(角化型)扁平上皮癌、小細胞癌の特徴をおさえておき、そうでないものを腺癌と考えるのが良いでしょう。

腺癌の細胞像、解説

小細胞癌と異なり、緑色の細胞質を有していることがわかります。また、角化を示すオレンジ色の細胞はありません。良性の画像が国家試験で出てくることはほとんどないのですが、良性のものでは線毛が確認できます(次画像)。毛がないことも悪性を指示する所見です。

線毛円柱上皮の細胞像、非腫瘍性

線毛を有する円柱上皮です(非腫瘍性)。線毛の長さは、左下のスケールを参照するとおよそ5 μmくらいでしょうか。緑色の細胞質の中に、細胞の半分くらいの大きさの核が一個あります。それと先程の腺癌とした細胞を比べると、核は大きいのがおわかりになるかと思います。

腺癌の細胞像、その2

参考として、別視野の腺癌を提示します。非常に大雑把な診断をすれば、毛がなくて緑色の細胞質をもっていて、オレンジ色の細胞がなければ腺癌です。

角化型の扁平上皮癌の細胞像

これが角化型の扁平上皮癌です。パパニコロウ染色には染色液にオレンジGが含まれており、角化を示す細胞はオレンジ色に染まります(提示画像真ん中わずかに下方)。パパニコロウ染色は角化を検出するのが得意です。これも大雑把なものの言い方をすれば、キラキラした(伝わりにくいと思いますが)オレンジ色の細胞を見つけたら、角化型の扁平上皮癌です。

実際のところは、たとえば角化を伴わない扁平上皮癌は、オレンジ色にならないので、診断が困難な場合があります。

角化型の扁平上皮癌の細胞像その2

角化型扁平上皮癌の別画像です。

続いて、残りの小細胞癌です。

真ん中の細胞の集まりが小細胞癌です。腺癌と比べて、緑色の細胞質がほとんどありません。もちろん角化もありません。細胞がギュッと満員電車に詰められるように押し固められています。

小細胞癌の鋳型状配列

配列に特徴があり、ぎゅうぎゅうになるパターンや、一直線上に配列したりします。

小細胞癌の鋳型状配列
小細胞癌の索状配列、インディアンファイル

また、核がやわらかいと形容されますが、挫滅による変性が生じやすいです(核線を引くと表現します)。形態の観察が困難になりますが、この変性が起きやすいのも小細胞癌の特徴です。腺癌や扁平上皮癌ではそのように核線を引くことは少ないです。

肺小細胞癌、核線を引く挫滅が目立つ

腺癌、角化型の扁平上皮癌、小細胞癌の特徴は捉えられたでしょうか。これら3つの疾患を細胞像から診断できるようになると、国家試験において肺癌の病理はマスターしたと言っても言い過ぎということはないでしょう。

115A71, 問題文と選択肢

67歳の男性。血痰を主訴に来院した。2か月前から血痰、1か月前から嗄声を自覚するようになった。喫煙歴は20本/日を45年間で、2年前から禁煙している。身長164cm、体重52kg。血圧112/84mmHg。呼吸数20/分。血液所見:赤血球420万、Hb 14.8g/dL、Ht 40%、白血球6,800、血小板26万。喀痰細胞診のPapanicolaou染色標本に示すような細胞を認めた。考えられる疾患はどれか。2つ選べ。

a 肺癌

b 咽頭炎

c 喉頭癌

d 気管支炎

e 唾液腺癌

角化型扁平上皮癌

オレンジ色の細胞が画像の中心にありますので、角化型の扁平上皮癌です。扁平上皮癌を生じうる選択肢を選べばよいです。まずは炎症のb. 咽頭炎とd. 気管支炎を除外します。

a. 肺癌に角化型の扁平上皮癌が含まれることは、115D27でも触れました。残りはc. 喉頭癌かe. 唾液腺癌です。e. は唾液「腺」癌です。唾液腺には扁平上皮癌が生じることはありますが、頻度が低く稀か、あるいは複数の組織型を有する病変で、一部に扁平上皮癌を混在する形で認められます。以上、唾液腺には基本的には腺癌が生じます。

そもそも、唾液腺の細胞は喀痰には容易に出てこないことが予想できます。唾液「腺」であること、喀痰の通り道(気道から口)を考えれば、a. 肺癌とc. 喉頭癌が正答と言えるでしょう。

Take home messages

国家試験では、オレンジ色の細胞を見たら扁平上皮癌を考える

オレンジ色の細胞がなければ、肺癌では腺癌か小細胞癌を考える

緑色の細胞質を持っている場合は腺癌、細胞質が殆どない場合は小細胞癌を考える

発展的な補足 扁平上皮様の形態や免疫組織化学的形質を示す悪性腫瘍の原発巣推定は困難な場合が多い

やや発展的ですが、逆に考えると、扁平上皮癌が検出されたとき、その原発臓器の推定が難しいことがあります。115A71においても、喀痰細胞診からは肺癌あるいは喉頭癌の鑑別は形態からは困難です。喉頭ファイバーや気管支鏡、レントゲンやCTなどほかの所見と合わせて総合判断する必要があります。

もっと困るのは、リンパ節転移で扁平上皮癌が見つかったときです。喫煙者は食道癌や喉頭癌、肺癌を併発することも多いです。併発していた場合は、どれが転移したのかがわかりません。あるいは、転移が先に見つかった場合は、どこから癌が転移してきたのか、形態からはできかねます。2回目の肺扁平上皮癌が再発なのか新規病変なのかを組織像から判断することも、難しいことのほうが多いでしょう。

もっともっと困るのは、ほかの癌が扁平上皮に似ることがあります。唾液腺癌にも扁平上皮癌が含まれることがありますが、それより高い頻度で、尿路上皮癌は扁平上皮に類似します。子宮体部などに発生する類内膜癌が扁平上皮様の形態を呈することがあります。胆膵領域では、腺扁平上皮癌が発生することがあります。扁平上皮癌の成分が圧倒的に多いこともあり、扁平上皮癌の形で転移している場合は胆膵領域の癌が転移している可能性を忘れがちです。

言い換えると、転移巣の生検(病変の一部しか見ていない)では、本当に扁平上皮癌が転移しているのか、扁平上皮への分化を示す腫瘍が転移しているのか、腺扁平上皮癌など扁平上皮癌を含む癌の扁平上皮癌成分のみが転移しているのかなどがありますが、これらを見分けるのが形態や免疫染色では難しい場合があります。加えて、本当に扁平上皮癌が転移していても、日常診療ではその原発臓器の推定も困難です。残念ですが、病理は万能ではありません。

非角化型の扁平上皮癌で特定の免疫染色をすれば原発臓器の推定に繋がる場合もありますが、更に発展的で趣旨から外れるので、またの機会にします。