病理専門医試験問題解説 (2022年Ⅰ型-41, 42, 43) 感染予防について

新型コロナウイルス感染症の対策については、5月に予定されている5類相当移行を境に大きく変わることが予想されます。病理学会でも制度が変わり次第、アナウンスがあるようです。とりあえず現行の制度で確認していきます。

問題と解答の確認

Ⅰ型-41 80%エタノールは結核菌の消毒に有効である。マル

Ⅰ型-42 プリオンは121℃/20分のオートクレーブでほぼ完全に不活化する。バツ

Ⅰ型-43 新型コロナウイルス感染症を疑う患者から採取された未固定検体はクリーンベンチ内で扱うことが推奨される。バツ

消毒液について

エタノールは芽胞形成菌とエンベロープを持たないウイルスに効果が乏しいです。芽胞形成菌の例は、グラム陽性桿菌のクロストリジウム属(破傷風菌、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌、クロストリジウム・ディフィシルなど)やバシラス属(炭疽菌、枯草菌、セレウス菌)があがります。

結核菌は空気感染をする2類感染症ですが、芽胞はもっていません。ですので結核菌の消毒に80%エタノールは有効です。

エンベロープの有無でウイルスを見ていく

さて、エンベロープの有無でウイルスをみていきましょう。

エタノールが有効なエンベロープを持つウイルスは、コロナウイルスインフルエンザウイルスB, C, D型肝炎ウイルス、ヘルペス、風疹、麻疹、狂犬病、エボラウイルス、レトロウイルス(HIV, ATL)などです。

一方、エンベロープを持たないウイルスは、ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、A型肝炎ウイルスなどです。これらには次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)が有効ですが、一般的に手指消毒に適しているとはいえません。

芽胞形成菌に有効な消毒の方法は?

芽胞形成菌は煮沸でも不活化することができません。121℃/15分以上のオートクレーブで滅菌できます。

剖検で使用した器具の消毒は?

未知の感染症の可能性を常にはらんでいる剖検で使用した器具の消毒は、中性洗剤と流水を用いて、血液を含む目に見える汚れを落としたあとに、オートクレーブや次亜塩素酸ナトリウム処理を行います。手指ではなく器具などであれば、グルタールアルデヒドがいずれの菌・ウイルスにも有効です。

プリオン病の剖検について

また、菌やウイルスではありませんが、プリオン病の剖検も感染性に留意する必要があります。プリオン病の剖検マニュアルが公開されています。プリオン病は感染性を有する異常プリオンタンパク質による“感染症”です。厚労省に疾患の概要が書かれています。プリオン病の中で最も多いのは、孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病で、8割を占めています。100万人に1人くらい発症しますが、発症後約1年以内で死亡する場合が多いようです。

さて、プリオン病で問題になるのは、安全に剖検をすることです。剖検で使用したもので、焼却が可能なものはすべて焼却します。焼却できないものは、3%SDS溶液で100℃3-5分煮沸(+オートクレーブ)ののち感染ゴミとして廃棄します。剖検台は水酸化ナトリウム水溶液や3-5%次亜塩素酸ナトリウムで繰り返し清拭します。ご遺体は3%次亜塩素酸ナトリウムで清拭します。

プリオン病の解析にあたり、脳組織の凍結検体の採取(前頭葉、小脳から各1 g)が極めて重要なようです。残りの脳は一旦ホルマリンで固定しますが、プリオンタンパク質はホルマリンで不活化されません90%ギ酸、室温1時間の処置が有効です。

新型コロナウイルス感染関連の検体について

Ⅰ型-43については5月を境に正解が変わることが予想されますが、現時点での対応は以下のとおりです。病理学会から、細胞診および病理組織検体についてアナウンスがされています。新型コロナウイルスを疑う、あるいは感染者からの採取された検体の処理は、バイオセーフティキャビネットクラスⅡ(クリーンベンチは不可)で行うことが推奨されています。

5類相当移行後は、標準感染予防策に加えて、呼吸器検体では個人防護服、ゴーグル、N95マスクの着用推奨あたりに落ち着くのでしょうか(推測です)。

Take home messages

結核菌、HBV, HCV, HIVはエタノール消毒が可能

芽胞形成菌はオートクレーブで不活化される

プリオン病の剖検で使用したものは原則焼却する。焼却できないものは3%SDS溶液で100℃3-5分煮沸する。

ホルマリン固定でプリオンタンパク質は不活化されないため、標本作製に当たり90%ギ酸、室温1時間の処置が必要である