はじめに
HER2の免疫染色は体外診断用医薬品も含まれており、また適応臓器も拡大中です。PMDAや関連学会で常に最新の情報を確認するようにしてください。さて、HER2の染色の評価も頻出です。治療薬としてトラスツズマブ(ハーセプチン)などが使用できるか、つまり治療方針の決定にかかわる重要な免疫染色ないしISHです。
乳癌、胃癌が有名ですが、唾液腺と大腸癌もHER2の検索を行うことが保険診療で可能になりました。PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)にコンパニオン診断薬等の情報のページがあり、ここに保険診療で使うことの出来る体外診断用医薬品の最新情報がのっています。
HER2を含め体外診断用医薬品に関する問題は分子病理専門医試験にも頻出
PMDAのものは薬物のあいうえお順に並んでおり、臓器ごとや遺伝子の変化ごとではないので若干見にくいのが残念です。昨年分子病理専門医試験を受けましたが、下図のように対応する臓器、遺伝子の変化、薬物名、検査と使用する検体(FFPEか、血液か)、DNA、RNA、タンパク質のどれをみるのか、などをまとめて自分好みに再構成してくりかえし復習しました。PMDAのものが最新ですので、分子病理専門医を受ける方はご注意ください。

横道にそれました。各臓器のHER2の評価について確認していきます。
乳癌のHER2の評価
HER2の免疫染色あるいはISHのどちらから先行しても構いません。簡便さの観点から、多くの施設では免疫染色が先行していると思います。
HER2の評価は浸潤部で評価します。乳癌・胃癌HER2病理診断ガイドライン(第2版)がでています(金原出版にリンク、ASCO/CAPガイドライン2018に準拠)。評価方法は、10%を超える腫瘍細胞の膜全周性に発現があるかどうかを基準に見ていきます。ちなみにER, PgRの評価は浸潤部に限定しないことに留意ください。
3+(膜全周性に強い発現がある): HER2陽性
2+(膜全周性に弱いないし中等度の発現がある):equivocal (不確定、未確定などと和訳)、同じ検体を用いてISHを行うか、違う新たな検体を用いてIHC/ISHを行う。
1+(かすかな、不完全な膜発現):陰性
0(発現がないか、10%未満の細胞で1+相当の染色性):陰性
2+の評価はASCO/CAPガイドライン2013から変更があり、以前は不完全な膜陽性や10%以下に3+相当の染色がみられるものも2+に該当していましたが、それらが削除されています。しかしながら、日常診療では拾い上げるべきとの注釈付きのようです。結論としては、従前の評価方法でよいのでしょう。
保険収載されている試薬(IHC)
覚える必要はありませんが、ダコHercepTestⅡ, ベンタナI-VIEWパスウェーHER2 (4B5), ベンタナultraviewパスウェーHER2 (4B5), ヒストファインHER2キット (MONO), ヒストファインHER2キット (POLY), BondポリマーシステムHER2テストの6種類が保険収載されています。
胃癌のHER2の評価
胃癌は評価が手術検体と生検検体とで異なります。評価する頻度としては、生検検体のほうが多いかもしれません。乳癌との違いは、腫瘍細胞の膜全周ではなく、側方ないし側方+基底膜側の発現をみます。管腔面の発現は評価から除外です。
手術検体は乳癌と類似していて、10%を超える腫瘍細胞について、
3+: 強い完全な側方ないし側方+基底膜側の発現がある
2+: 弱~中等度までの完全な発現がある
1+: かろうじて/かすかな染色が細胞膜の一部にみられる
発現がないか、10%以下のものは0 です。3+が陽性、2+がISHを実施する、1+, 0は陰性です。
生検検体では、上記の染色性を示す5個以上の癌細胞クラスターがあるか(ひとかたまり以上あるか)どうかで評価していきます。胃癌のHER2の発現には、乳癌と比べて不均一性があることが知られており、生検検体では腫瘍細胞の発現割合について考慮しないということが反映されている評価方法と思います。
使用する抗体は乳癌と同じものでOKです。
大腸癌のHER2の免疫染色について
IHCではベンタナultraviewパスウェーHER2 (4B5)が、ISHではパスビジョンHER-2 DNAプローブキットが体外診断用医薬品として薬事承認されています(PMDA参照)。
いままでと同じように、IHC先行でもISH先行でも構いませんが、HER2陽性大腸癌は乳癌や胃癌よりも希少であり、安価で簡便なIHCを先行するのが望ましいでしょう。しかしながら、IHC陰性(2+以下)でもISH陽性例が少なからず含まれているようです。少なくとも、2+はISHにすすむのがよいとされているようです。
評価方法は、これまた手術検体と生検検体とで異なります。手術検体は、
・3+:10%を越える腫瘍細胞で側方または全周性の強い発現を3+
・2+:10%超の腫瘍細胞で側方または全周性の不完全な発現(弱から中等度)、または10%未満でも3+相当の発現
・1+:発現が弱いもの
・0:発現がないか、10%以下の細胞において1+相当の発現があるもの
生検検体では、陽性率によらず、
・3+:側方または全周の細胞膜に強い発現
・2+:不完全または完全な、弱~中等度の発現
・1+:細胞膜にかすかな発現
・0:発現なし
となっています。生検検体は陽性率によらないので、胃癌よりもゆるいですね。まるっと暗記するよりかは、太字のところを頭の片隅においておくのが良いと思います。
唾液腺について
使用できる薬品は、IHCではベンタナultraviewパスウェーHER2 (4B5)が、ISHではベンタナDISH HER2キットが体外診断用医薬品として薬事承認されています。唾液腺癌におけるHER2検査は、必ずIHC先行です。生検と手術検体で評価法は分かれていません。腫瘍内不均一性が少ないのだと思います。
・3+:10%超の腫瘍細胞の細胞膜全周に強い発現
・2+:10%以下に3+相当、あるいは10%超の腫瘍細胞の細胞膜全周性に弱から中等度の発現
・1+:10%超の細胞膜にかすかな発現
・0:発現なし、10%未満に1+相当の発現
唾液腺導管癌に強い発現を示すことが多いことが知られています(それ以外の組織型では少ない)。ですので、HER2染色を行う場合の組織型としては、唾液腺導管癌あるいは導管癌を含む多形腺腫由来癌などが考えられます。
HER2免疫染色の今後
化学療法歴があり、手術不能ないし再発乳癌のHER2低発現(IHC1+やIHC2+ and ISH-)に対してトラスツズマブデルクステカンが使用可能になりました(2023/03/27から)。ベンタナultraViewパスウェーHER2 (4B5)による確認が必要です。薬事承認されていますが保険診療はまだできません。費用負担などについて乳癌学会よりステートメントがでています。
肺癌について、米国ではオンコマインDx Target Test(組織検体)とGuardant360CDx(血漿検体)でCDxとしてFDA承認されており、日本でもERBB2(HER2をコードする遺伝子)のNGS検査がCDxとして実施される見通しのようです。