病理専門医試験問題解説 (2022年I型-47) 遺伝子の変化を検索する方法の使い分け

問題文と解答

In situ hybridazation法は点突然変異の検出に頻用される、答えはバツです。適するのは、PCRやサンガー法と思います。

はじめに

遺伝子の変化には、一塩基置換(SNV; single nucleotide variant)にはじまり染色体の構造変化(逆位、欠失など)、大きさも様々です。その変化を確認する方法も、変化の規模に応じて使い分けが必要です。

political correctness

なお、変異(mutation)や多型(polymorphism)という言葉にnegativeなイメージをもつひとたちも少なからずいるようです。代わりに、バリアントや変化(variant, change, alteration)という表現の仕方が望ましいとされています。HGVS recommendations for the description of sequence variants: 2016 update. Hum.Mutat. 25: 37: 564-569

遺伝子の変化の規模について

さて、本題に入ります。たとえば、KRAS G12C(主にc.34G>T)やBRAF V600E(主にc.1799T>A)などのように、1塩基置換によりアミノ酸が変化しタンパク質の機能が大きく変わるものがあります。また横道にそれますが、BRAF V600Eを検出できる免疫染色があります。1塩基置換のほか、いくつかの塩基がなくなることでタンパク質の構造が変化する欠失(EGFR c.2235_2249del, p.Glu746_Ala750delELREA)もあります。HER2検査は、ERBB2遺伝子の増幅をISHで検出し、タンパク質の発現増加をIHCで確認します。ついで、染色体の大きな構造異常(モノソミーやトリソミー、フィラデルフィア染色体などの融合遺伝子)などがあります。

遺伝子の変化の規模に応じた検査の違い

塩基のサイズで厳密な使い分けはされていませんが、1~数十までの塩基の変化は、従前からの方法では、関心領域を挟むようなPCR、サンガー法などによるシークエンスにより検索をします。数百~の塩基の変化は、その領域に得意的な配列を認識するプローブで挟んだPCRや、ISHが適します。もっと大きな領域の変化(構造変化を含む)は、karyotype(G-bandingなどにより染色体の形を見る)が適しています。染色体が切れてつながる領域に一定の傾向があるのであれば、切断点や融合後の配列を認識する(あるいは正常を認識する)ようなPCRやISHを組めば、認識するしないで染色体構造の変化の有無を推測することもできます。

In situ hybrydazationについて

ISHは核酸(DNAやRNA)を組織標本や組織切片中で観察する方法です。HPVやEBVなど外来のウイルスを観察したり、染色体の構造変化(逆位、欠失、融合)や遺伝子増幅(HER2)などを観察したりすることの出来る方法です。ISHには光学顕微鏡で観察できるCISH(Chromogen ISH)や蛍光顕微鏡で観察するFISH(Fluorescent ISH)がありますが、原理は同じで標識の方法(発色法)が異なるだけです。

Take home messages

遺伝子の変化の規模に応じて、検査を使い分ける

1~数十塩基の変化:PCR, シークエンス(含サンガー法)

数百~の変化:ISH, PCR

逆位や欠失など、染色体の大きな規模の構造変化:karyotype

規模の小さな変化(1~数十塩基の変化)には、ISHは難しい