病理専門医試験問題解説 2022 (Ⅰ-36) 作業環境測定について

問題文

ホルムアルデヒドを使用する部署では作業環境測定の記録を30年間保管する義務がある。

答えはマルです。作業環境測定について確認していきましょう。

作業環境測定について

病理部門では、ホルムアルデヒドやキシレンなどの揮発性で毒性のある薬品を管理しています。ホルムアルデヒドは可燃性ないし引火性の高い気体です。その毒性については、気道や目の粘膜の炎症を引き起こすだけでなく、発がん性、生殖細胞変異原性もあります。

ですから、それらの有害な薬物の濃度が一定以下にとどまっているかを定期的に検査する、作業環境測定に関する出題も頻出です。自分の身を守るためにも、よく整理しておきましょう。詳細は、日本作業環境測定協会のサイトにあります作業環境測定の基礎知識に記載があります。

作業環境測定の実際

作業環境測定は半年に1回行われ、その記録は30年間保管されます。

測定方法は、A測定B測定よりなります。A測定は、作業場そのものの環境中濃度を測定します(作業場の時間的空間的平均)。測定機器を6 m以下の等間隔に5個以上おき測定します。B測定は、発生源に近接する場所で濃度が最も高くなると思われる時間に、その作業が行われる位置で測定します(作業者の曝露が最大と思われる場所での測定)。病理では、切り出しをしているときに測定することになろうかと思います。切り出し室にA測定用の機器を等間隔において、切り出し台の近く(病理医の手元付近)にB測定用の機器が配置されるでしょう。10分以上測定します。

測定結果の評価

作業環境測定結果の評価は、第1管理区分、第2管理区分、第3管理区分にわかれます。第1管理区分が合格です。第2管理区分と判定されたら、作業環境改善に必要な措置を講ずるよう努力しなければなりません。第3管理区分と判定されたら、直ちに、作業環境改善に必要な措置を講じて、第3管理区分を脱しなければなりません。

薬物の管理濃度

各薬物の管理濃度をまとめます。

ホルムアルデヒド:0.1 ppm

トルエン:20 ppm

キシレン:50 ppm

メタノール:200 ppm

イソプロピルアルコール:200 ppm

アセトン:500 ppm

妊娠や出産・授乳機能に影響のある化学物質

上記のうち、トルエン、キシレン、メタノールに関しては、妊娠や出産・授乳機能に影響のある化学物質であるため、女性労働基準規則により、第三管理区分に区分された屋内作業場における業務は禁止されています(e-Gov, 女性労働基準規則、こちらのほうがみやすいかもしれません。厚生労働省、母性保護のための「女性労働基準規則」を改正)。

自分や技師を守るためにも、有害な化学物質に対する最低限の知識は備えておきましょうという病理学会のメッセージと思って、しっかり得点しましょう。

補足(個人サンプリング法について)

A測定、B測定に変わるものとして個人サンプリング法(C測定、D測定)があります(労働者健康安全機構、個人サンプリング法による 作業環境測定とその実践)。令和3年から導入されたあたらしい測定法ですが、病理関連の化学物質はまだ対象ではないようです。A, B測定は作業環境(空間)に設置して濃度を測定するのに対して、個人サンプリング法は作業者に装着して測定します。

C測定は、測定機器を複数の作業者に装着して全作業時間を通じて測定します。D測定は発散源に対して近接したり、高濃度曝露が予想される作業者に装着して15分測定します。