病理専門医試験問題解説2022 (Ⅰ-37から40) ゲノム医療が普及した現在における検体の固定について

2019年にはじまった遺伝子パネル検査は一般化した

分子病理専門医試験が3回終わり、今年は4回目です。2019年からはじまったゲノム診療が一般化しており、病理専門医試験においてもそれに関する出題が出てきました。問題を確認していきましょう、

ゲノム医療に適した検体の準備とエキスパートパネルについて

I型-37:ホルマリン固定の際の液量は組織量と同量が目安である。

I型-38:ゲノム診療用病理組織検体の固定には10%中性緩衝ホルマリンが推奨される。

I型-39:がんゲノム医療におけるエキスパートパネルには複数の常勤病理医の参加が必須である。

I型-40:EDTA溶液で脱灰処理された検体は免疫組織化学法には適さない。

解答

順に見ていきましょう。

I型-37:ホルマリン固定の際の液量は組織量と同量が目安である。バツです。

組織量の10倍以上のホルマリン液量が理想です。

I型-38:ゲノム診療用病理組織検体の固定には10%中性緩衝ホルマリンが推奨される。マルです。そのとおりです。

I型-39:がんゲノム医療におけるエキスパートパネルには複数の常勤病理医の参加が必須である。マルです。そのとおりです。

I型-40:EDTA溶液で脱灰処理された検体は免疫組織化学法には適さない。バツです。

硬組織を免疫組織化学(ゲノム検査含む)に適した形で脱灰するために必須なのがEDTAです。一般的に、酸脱灰(ギ酸など)処理はタンパク質や遺伝子の変性をもたらします。

エキスパートパネルの開催要件

エキスパートパネルはがんゲノム医療中核拠点病院(全国13箇所)およびがんゲノム医療拠点病院(全国32箇所)のみで開催が可能です。中核拠点病院ないし拠点病院になるためには、ISO15189, CAP-LAP, CLIAなどの第三者認定を取得する必要があります。また、エキスパートパネル開催に必要な参加者の要件は、現行(2023/04/11現在)では以下のとおりです。

国立がん研究センター、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院についてや日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会による次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス第2.1版もあわせてご参照ください。

エキスパートパネルの構成員

がん薬物療法を専門とする常勤の医師(複数名、がん薬物療法専門医は必須ではない)

遺伝医学を専門とする医師(臨床遺伝専門医は必須ではない)

遺伝カウンセリング技術を有する医療スタッフ(認定遺伝カウンセラーは必須ではない)

病理を専門とする常勤の医師(複数名、分子病理専門医は必須ではない)

分子遺伝学やがんゲノム医療の専門家

担当医もしくはその代理の医師

自施設でシークエンスをする場合は、バイオインフォマティシャン

小児を取り扱う場合は、小児がんに専門的な知識を有しエキスパートパネルに参加したことのある医師

制度自体があたらしいものですので、今後条件が変更になる可能性は十分あります。

Take home messages

組織の固定には10倍以上の10%中性緩衝ホルマリンを用いる

硬組織に酸脱灰は使用しない(EDTA推奨)

がんゲノム医療中核拠点病院あるいはがんゲノム医療拠点病院でのみエキスパートパネルが開催できる

中核拠点病院ないし拠点病院になるためには、ISO15189, CAP-LAP, CLIAなどの第三者認定を受ける必要がある

エキスパートパネルの構成員に、常勤病理医が2名以上必要である