病理専門医試験2021 I-38からI-40 メタクロマジー、剥離細胞診と穿刺吸引細胞診、クリーンベンチと安全キャビネット

引き続きI型文章問題を見ていきます。コロナウイルスをきっかけに感染性の検体を扱うことの関心が一時的にトレンドになりましたが、基本的には類題が出題されていますので、しっかり対策しましょう。

I-38細胞診のギムザ染色では異染性(メタクロマジー)の観察が可能である

そのとおりです。答えはマルです。複数回出題されているためか、正答率も0.97と高めです。2022年のI-45で全く同様の問題が出題されています。実際の診療上では多形腺腫でのメタクロマジーをよく経験しますが、正直なところ解説できるほどの理解がありません。自分が受験した当時も、仕方がないのでそのまま暗記して臨んだ覚えがあります。

I-39 尿管カテーテル尿(洗浄尿)と比較して,自然尿では出現細胞数が多く,細胞変性が弱い傾向がある

答えはバツです。正答率0.90と高めではあります。細胞診検体の採取方法に関する問題です。

新鮮な細胞が採取できる穿刺吸引細胞診(体腔液や嚢胞内病変はそうとは言えませんが)と、変性が加わっている可能性がある、浮遊(剥離)している細胞を採取する剥離細胞診とがあります。前者は変性が少ないのが特徴です。後者は変性のため核が大きく見えたりすることもあります。ですから同じ患者から取られた同じ疾患と診断できる標本でも、採取方法の違いで所見が異なることはよくあります。洗浄尿は穿刺吸引こそしませんが、水流を当てて剥がして得る細胞です。自然尿よりも変性が少ないと言えるでしょう。

この問題は尿細胞診ですが、たとえば呼吸器領域で得られる細胞診標本では、縦隔リンパ節の穿刺吸引細胞診標本が最も変性が少なく、肺腫瘤の擦過細胞診が次に変性が少なく、胸水や喀痰は変性が強い可能性があると言えるでしょう。

I-40 新型コロナウイルス感染症を疑う患者からの未固定検体の取扱いでは,クリーンベンチではなく Biological Safety Cabinet Class II の使用が推奨される

答えはマルです。2022年のI-43にも類題が続いて出題されています。しかしながら、2022年では正答率が下がってしまいました。新型コロナウイルス感染が疑われる患者から採取した未固定検体の取り扱いは、病理学会から2020年に推奨する方針について低減があります。

クリーンベンチと安全キャビネットの違いをはっきりさせておきましょう。これらは、空気の流れが全く異なり、ですから使用目的も全く異なります。サーモフィッシャーなどいろいろなところで特集がなされていますので、「クリーンベンチ 安全キャビネット 違い」などで検索してみるのも良いでしょう。

クリーンベンチは、庫内を陽圧にしてサンプルの汚染から保護します(検体を守る)。培養細胞などの扱いの経験がある方は馴染みのある機会と思いますが、感染性の検体を陽圧のクリーンベンチで扱うと、周りにその感染性の物質をばらまく危険があります

一方、安全キャビネットは庫内が陰圧で、作業者やサンプル、あるいはサンプル同士が汚染することなく、また環境の保護が可能になります。安全キャビネットには国際規格が存在し、HEPAフィルタを搭載しています。それにより庫内の清浄性と、エアロゾルの外部流出を防ぐとされています。HEPAフィルタはJIS規格があり、定格風量で粒径が0.3 µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタと規定されています(wikipediaより)。更に高性能なULPAフィルタというのもあるようです。

ちなみに、コロナウイルスの大きさは直径100-200 nmで、エアロゾルの粒子の大きさはかなり幅があるようです。

5類相当に変更した際の解剖における感染予防策についても、感染症の分類こそ変われど、ウイルス自体の感染性が変わることはないという文言も見受けられます(病理学会より)。病理解剖における防護は、標準防護(ガウン、防水エプロン、手袋、アームカバー、帽子、長靴)に加え、目の防護(アイシールド、ゴーグル、フェイスガードなど)とエアロゾル予防(N95マスク)が望ましいとしています。

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細胞診のギムザ染色では異染性(メタクロマジー)の観察が可能である(そのままですみません)。

穿刺吸引細胞診は変性が少なく、剥離細胞診は変性を伴う

クリーンベンチは庫内を陽圧にするため、感染性の検体を扱ってはいけない