病理専門医試験2021年 I型-48から-50 遺伝子パネル検査、作業環境測定、感染性廃棄物

I-48 遺伝子パネル検査に望ましい腫瘍細胞含有率

標本上の腫瘍細胞含有率(全細胞数に対する腫瘍細胞の割合)が 5% 以上あれば,遺伝子パネル検査で精度の高い結果が期待できる。

答えはバツです。遺伝子パネル検査の種類により必要とする腫瘍細胞含有割合は微妙に異なりますが、基本的には20%(30%) 以上が望ましいとされています。

遺伝子パネル検査の結果は、遺伝子変異の頻度が5%以上を有意とみます。ここで、がん遺伝子の変異があったケースを想定して考えていきましょう。

がん遺伝子の場合は1対ある対立遺伝子のうち一方の変異があればよいです(がん抑制遺伝子の場合は両方の変異が必要ですが)。問題文のように、仮に腫瘍細胞含有率が5%であれば、遺伝子変異の頻度は2.5%であり、有意な変異とみなされません。

以上より、最低でも10%を超える腫瘍細胞含有率が必要です。

2023年7月現在で、組織検体を用いる遺伝子パネル検査はFoundation oneNCCオンコパネルがあります。それぞれ、望ましい腫瘍細胞含有割合は、Foundation oneが20%(30%) 以上、オンコパネルが20%以上です。ほか、固定や薄切後の腫瘍部分の体積など詳細な条件は専門医試験2022年I-49で触れています。

実務上の注意 肝組織を見ると2核の肝細胞がよくみられます。腫瘍細胞含有率は、細胞の面積ではなく、核の数でカウントします。肝腫瘍をパネル検査に提出するときに、既存の肝組織が含まれている場合はより割合が高くなるように気をつける必要があります。

I-49 作業環境測定の記録の保管期間

特定化学物質であるホルムアルデヒドの作業環境測定の記録の保管期間は30年です。ですので問題文の通りで、マルです。ホルムアルデヒドの管理濃度は、0.1 ppmです。ほかに病理で使用する、毒性や揮発性のある薬品の管理濃度は以下のとおりです。専門医試験2022年のI-36でも同様の問題が出題されています。

トルエン:20 ppm

キシレン:50 ppm

メタノール:200 ppm

イソプロピルアルコール:200 ppm

アセトン:500 ppm

補足 個人サンプリング法の適応拡大

さて、これらの薬品について濃度を測定するわけですが、2022年の問題でも触れたように、個人サンプリング法という、あらたな測定法が普及しつつあります。今までの測定方法は、A測定、B測定という作業環境(空間)に設置して濃度を測定するものであり、個人サンプリング法は作業者に装着して測定します。働くの安全と健康を守るためという、より実態に即しているのかもしれません。令和5年4月に改正があり、病理で扱う薬品についても個人サンプリング法が可となりました(厚生労働省、作業環境測定関係のページより)。改正後間もないのでどうなるか予想が付きませんが、ホルマリンの暴露は医師であれば切り出し時が最大でしょう(生検体の取り扱いがあれば固定作業のときも)。ですので個人サンプリング法が妥当な測定方法だと思います。

I-50 病理で扱う検体は感染性廃棄物として扱う

病理学的検索を終了したホルマリン固定臓器を処理する際は感染性廃棄物として取り扱う。

答えはマルです。「感染性廃棄物 病理」で検索すると環境省のマニュアルがでてきます。マニュアルでは、臓器や組織、皮膚などは病理廃棄物に該当し、感染性廃棄物として処分することが求められます(感染性廃棄物の判断フローより)。注として、ホルマリン漬臓器等を含むとあります。

ホルマリンで十分固定されたものは菌やウイルスなどは失活していますが、十分固定されていなければその限りではありません。また、プリオンの失活はホルマリンでは困難です。ですから仮にホルマリンに浸かっていても、感染性廃棄物として廃棄する必要性が有ると考えます。

Take home messages

遺伝子パネル検査に求められる腫瘍細胞含有率は20%以上が望ましい

特定化学物質であるホルムアルデヒドの作業環境測定の記録の保管期間は30年である

病理で扱う検体を廃棄する場合は、感染性廃棄物として取り扱う