I-31 死体解剖資格
死体解剖資格を有していても,遺族の承諾を得ずに解剖した場合には,刑法第 190 条の規定による死体損壊罪が成立することがある。
答えは◯です。正答率0.99です。問題ないですね。病理解剖を含む解剖については、2022年のI型-31で詳細を記載しています。原則として、解剖には遺族の同意が必要です。なので、死体損壊罪が成立することがあるという記載は◯です。
しかしながら、例外として、病理解剖関連では、死体解剖保存法第七条の「二人以上の医師(うち一人は歯科医師でも可)が診療中であつた患者が死亡した場合において、主治の医師を含む二人以上の診療中の医師又は歯科医師がその死因を明らかにするため特にその解剖の必要を認め、かつ、その遺族の所在が不明であり、又は遺族が遠隔の地に居住する等の事由により遺族の諾否の判明するのを待つていてはその解剖の目的がほとんど達せられないことが明らかな場合」は遺族の同意を得ずに解剖を行うことが可能です。遺族の同意を必ず得る必要がある、だとバツになると思いますので、問題文の文末の表現に注目しましょう。
I-32 ネクロプシー
ネクロプシーの実施に際して遺族の同意は不要である。
答えはバツです。2022年のI型-33で全く同じ問題が出題されています。病理解剖の同意が得られなかった場合に、より侵襲の小さいネクロプシーを行うことが予想されますが、それでも同意を得ずにネクロプシーを行うと、死体損壊罪に問われますので注意が必要です。また、ネクロプシーは病理解剖とは異なり体腔内を肉眼的に観察することはありません。ですから、検体採取に当たり死体解剖資格が不要な点もポイントです。診療に携わった医師みずからが検体採取可能です。
I-33 医療事故調査制度
医療事故調査制度の対象事例となる病理解剖は原則として第三者施設で実施する。
答えはバツです。正答率0.46と過半数割れです。まずは医療事故調査制度について確認していきましょう。厚生労働省ホームページに、医療事故調査制度についてという項があります。また、厚生労働省のページにもリンクが貼られていますが、日本医療安全調査機構でも医療事故調査制度についてより詳細が述べられています。機構では、事故調査対象となったときの、遺族へ病理解剖について説明する例も紹介されています。
医療事故調査の対象
医療事故調査制度の対象となる医療事故は、「医療に起因もしくは起因すると疑われる死亡・死産で管理者が予期しなかったもの」です。予期しなかっただけで死因が明確なときもあるため、Ai (autopsy imaging, 死亡時画像診断) や解剖は全例に必須ではありません。しかしながら、Aiと解剖によって明らかになる場合もあります。その判断は管理者に委ねられており、やはり遺族の同意が必要です。
以降は個人的な意見ですが、まずはご遺体の見た目が変わらないAiを行い、それでも明らかな原因がわからない、はっきりしないときに、引き続いて解剖の話をするのもよいかもしれません。Aiは万能ではなく、また解剖も万能ではありません。互いに補完し合うものだと思っています。状況が許されるのであれば、Ai, 解剖の両方を行うことでより多くの多角的情報が得られると思います。
また、医療事故調査は公平中立な調査が求められるため、院内調査に際して外部委員が参画する必要があります(医療事故調査制度に関するQ&A(Q17))。なお、当該施設で死亡時画像診断や解剖が行えない場合は、医療事故調査等支援団体の協力を仰ぐことも可能です(医療事故調査制度に関するQ&A(Q15))。ですから、病理解剖を行う体制がある場合は、そこで解剖をするのが正しく、原則として第三者施設で実施するのは誤りです。
実務としては、我々病理医の業務は医療事故対象かどうかにかかわらず変わりありませんが、病理解剖報告書も医療事故に関する情報として重要な位置を占めるのは間違いありません。遺族や主治医、調査委員会は解剖報告書を心待ちにしていることと思います。なるべく早く、また正確な報告書の記載が望ましいと思います(医療事故調査対象だからではなく、全例そうすべきですが)。解剖時に、医療事故調査の対象になりそうか、あるいはなったら教えてほしいと主治医に伝えておくと良いでしょう。
補足 死亡時画像診断研修会
医師または診療放射線技師を対象とした死亡時画像診断研修会(昨年度はE-learning)が年一回行われています。主催は日本医師会、日本診療放射線技師会、Ai学会で、共催が日本医学放射線学会、日本救急医学会、後援は日本医学会、日本病理学会、日本法医学会です。本年度の案内はまだありません。昨年は11月ころ案内がありました。日本医師会の医療安全、死因究明のところからいけます。
Take home messages
病理解剖には、遺族の同意が原則必要
ネクロプシーにあたり死体解剖資格は不要(遺族の同意があれば死体損壊罪に問われない)
医療事故調査にかかる解剖を第三者機関に依頼する必要はない(自前で行えないときに協力を仰ぐことができる)