I-41 Nocardia asteroides はグラム陽性桿菌で,Actinomyces israelli と異なり抗酸性を示す。
答えはマルです。抗酸性を示す菌について整理しておきましょう。堤寛ライブラリー(https://pathos223.com/)に資料があります。
Ziel-Neelsen染色で確認する抗酸菌は、結核菌と非定型抗酸菌があります。また、Fite法(脱パラフィンをオイルを用いて行う)では弱い抗酸性を確認できます。
弱い抗酸性を示すものとして、ノカルジア(グラム陽性桿菌)、クリプトスポリジウム、イソスポラがあります。
ノカルジアと形態的に類似する放線菌(Actinomyces israelli)との鑑別に、Fite法が有用とされています。ノカルジアはFite法で抗酸性(赤く染まる)を示し、放線菌は示しません(青く染まる)。これにより、形態的に類似するノカルジアと放線菌を鑑別できると言われています。
ノカルジア症は日和見感染として重要です。ヒトヒト感染は稀(ない)とされています。放線菌は咽頭扁桃などに常在しております。歯周病からの波及が多く、唾液の混入により肺に腫瘤を形成する場合もあるようです。IUDの長期留置によるものも知られています。
I-42 プリオンは 121°C,20 分のオートクレーブで完全に不活化する。
答えはバツです。正答率は0.61と低めでしたが、翌年2022年でも同一の問題が出題されており、0.95と上昇していました。
オートクレーブで滅菌できるのは、クロストリジウム属などの芽胞形成菌です。詳しくは上記で触れています。
プリオンの消毒(失活)には、基本的には焼却です(使い捨ての器具を使うのが良い)。焼却可能なものは焼却します。
焼却できないものは、3%SDS溶液で100℃3-5分煮沸(+オートクレーブ)ののち感染ゴミとして廃棄します。
廃棄のできない剖検台は水酸化ナトリウム水溶液や3-5%次亜塩素酸ナトリウムで繰り返し清拭します。ご遺体は3%次亜塩素酸ナトリウムで清拭します。
また、プリオン病の解析には、脳組織の凍結検体の採取(前頭葉、小脳から各1 g)が極めて重要なようです。残りの脳は一旦ホルマリンで固定しますが、プリオンタンパク質はホルマリンで不活化されません。90%ギ酸、室温1時間の処置が有効です。プリオン病の剖検マニュアルがありますが、解剖可能な施設や検索可能な施設は非常に限られています。相談されたときに適切な施設を紹介できるようになっておくことが到達目標でしょうか。
I-43 老人性全身性アミロイドーシスにおけるアミロイド前駆蛋白は野生型トランスサイレチンである。
最初にですが、老人性全身性アミロイドーシスは、名称変更に伴い野生型ATTRアミロイドーシスとなりました。疾患名と沈着するアミロイドがほぼ一致してしまいました。改定後間もないので旧称で出題される可能性ありますが、いずれ今回のような問題は今後出せなくなるでしょう。
さて、アミロイドはCongo red染色やDFS (direct fast scarlet) 染色で橙色を示し、偏光顕微鏡で観察すると複屈折を示す緑色を呈します。アミロイドが組織に沈着する疾患がアミロイドーシスですが、アミロイド蛋白の種類によりアミロイドの病型が分類されます。全身性アミロイドーシスの大部分がAL (Aκ, Aλ), AA, ATTR, Aβ2Mの4タイプであります。ちなみに、Creutzfeldt-Jacob病もAPrPというアミロイド蛋白の沈着が見られ、限局性脳アミロイドーシスに分類されています。
全身性の4タイプのうちALであれば骨髄腫あるいは原発性が、AAは続発性(関節リウマチが有名)、Aβ2Mであれば透析が関連しており、ALの原発性以外は臨床情報も参考になるでしょう。
免疫染色による検討では、ALはkappa, lambdaの偏りがあるか(軽鎖制限)、AAの抗体がありますし、ATTRの抗体もあります。変異型ATTRアミロイドーシスは家族性(遺伝性)で、高齢者の心臓や肺、血管壁に野生型のトランスサイレチンが沈着するのが野生型ATTRアミロイドーシスです。
下記の補足1, 2を踏まえるとATTR(心)アミロイドーシスは変異型、野生型ともに重要な疾患であり(薬があるから)、侵襲の大きな心筋生検の前に核医学診断でひっかけられてくる可能性があります。今後もアミロイドの疑いで検体が出される頻度は増していくでしょう。
補足1 ATTR心アミロイドーシス(野生型および変異型)の診断に99mTc-ピロリン酸シンチグラフィが有用である
補足1 ATTR心アミロイドーシス(野生型および変異型)の診断に99mTc-ピロリン酸シンチグラフィが有用であり、心アミロイドーシス診療ガイドラインにのっている診断基準にも陽性所見として扱われています
補足2 ATTR心アミロイドーシス(野生型および変異型)には薬が存在する
商品名はビンダケル(タファミジス)でトランスサイレチンに結合し4量体を形成することで安定化させ、あらたなTTRアミロイドの形成を抑制するといわれています(すでに蓄積したアミロイドが消え去るわけではない)。
さて、抗体があるわけだから、じゃあこれらの抗体を買えば自施設でもアミロイドのタイプについて十分検討できるかと言うと、そうではないようです。使用する抗体により染色性が大きく異なること(特にkappa, lambda)や、前処理(ギ酸処理)によって染色性が増強したりあるいは減弱したりする場合もあり、かえって検索が困難になるという問題が指摘されています。
アミロイドーシスの病型診断コンサルテーションシステムが存在する
アミロイドの病型に参考となるような臨床歴に乏しく、免疫染色による検討でもタイプの判断が困難な場合は、アミロイドーシスのコンサルテーション(厚生労働科学研究費補助金、難治性疾患政策研究事業)が参考になります。コンサルテーションにかかる費用はなく、標本の輸送料のみの負担です。
Take home messages
形態的に類似するノカルジアと放線菌は、抗酸性の有無で鑑別できる(ノカルジアが抗酸性を有している)
プリオンの失活は、焼却か、3%SDS溶液で100℃3-5分煮沸ののち感染ゴミとして廃棄
標本作製には90%ギ酸、室温1時間処理で失活させる
ATTRアミロイドーシスには(治療)薬が存在する
アミロイドーシスの診断に迷ったら、コンサルテーションを(ATTRを安易に否定すると、治療の機会を奪うことになりうる)