問題文と選択肢
76歳の男性。全身の強い掻痒を主訴に来院した。介護老人保健施設に入所中である。2か月前から全身に掻痒があり、掻痒のために夜も眠れないことがある。腋窩、体幹、四肢、手掌および陰部に紅色の丘疹や掻破痕がみられる。手掌の丘疹部から採取した検体の顕微鏡写真を別に示す。正しいのはどれか。
a 蚊により媒介される。
b 有効な治療薬はない。
c ヒトからヒトヘ感染する。
d 近年はまれな疾患となった。
e アトピー性皮膚炎の原因の一つである。
主訴とキーワード
主訴:全身の強い掻痒
キーワード:76歳(高齢)、施設に入所中、全身に掻痒があり、掻痒のために夜も眠れない、紅色の丘疹や掻破痕
疥癬について、概要
全身の強い掻痒を訴えている施設入所中の高齢者からダニのような虫体と卵のような構造が見つかりました。ヒトヒゼンダニによる疥癬です。病理組織標本があったので提示いたします。
この疾患に気がつくのが遅いと、病院や施設内で流行してしまいます(ヒトヒト感染)。治療はいっとき有名になったイベルメクチン内服です。おそらく国家試験には出ないでしょうし病理医に治療はあまり関係ありませんが、フェノトリンという外用薬も推奨されています(疥癬診療ガイドライン、皮膚科学会)。
国家試験ではたびたび出題されている。臨床的にも重要な疾患です
国家試験ではたびたび出題されており、105D33の虫体、112A38の皮疹も提示いたします。疥癬トンネルとよばれる、ダニが通った線状の通り道が診断に有用です。
疥癬の組織像
病理では通常この疾患を診断することはありませんが、こうした疥癬に特徴的な所見が得られないときに、皮膚生検が行われます。提示症例も、強いかゆみを主訴に、原因がわからないので皮膚生検が行われました。弱拡大を提示します。角質層あるいは表皮の浅層になにかありますね。
拡大です。前後というか向きはわかりませんが、虫体が角層内に確認できます。輪郭がトゲトゲしています。
右側の「虫がいない」穴がいわゆる疥癬トンネルでしょうか。角層の穴だけでは虫体が観察できないため、生検前に疥癬の臨床診断がないと、診断困難になってしまうかもしれません。正しく診断するために、生検するときは、疥癬トンネルの入口と出口(虫はどこにいるのか)がわかる必要があると思いますが、そこまでわかるのなら生検はきっと不要ですね。やはり、我々病理医は疥癬を偶発的にみるのでしょう。
病理専門医試験でもマダニ咬症は数回出ていますが、疥癬はなさそうです。いわゆるsnap diagnosisができそうな形態ですし、臨床的にも重要な疾患ですし、出題されてもいいんじゃないかなと勝手に思っています。ってことで病理専門医のカテゴリにも入れちゃいます。
Take home messages
疥癬はヒトヒゼンダニによる感染症である
ヒトヒト感染を引き起こすため、病院や介護施設などで発生して発見が遅れると大変
診断に皮膚生検は必須ではないが、原因不明の強いかゆみとして遭遇する可能性がある