急性前骨髄球性白血病(acute promyelotic leukemia; APL (M3)) の塗抹像と組織像

30代の男性。1週間前から鼻出血を繰り返すため自宅近くの診療所を受診したところ、白血球減少と血小板減少を指摘され精査のため紹介受診した。眼瞼結膜は貧血様で眼球結膜に黄染を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。両下肢に紫斑を認める。血液所見:赤血球 381 万、Hb 12.6 g/dL、Ht 36%、白血球 3,400 (芽球 8%、前骨髄球 62%、分葉核好中球 10%、リンパ球 19%­、血小板 0.8万。骨髄血塗抹 May-Giemsa染色標本­を示す。この患者に投与すべき薬剤はどれか。

APL, M3の血液像

まずは、主訴の確認と問題文中のキーワードを抽出しましょう。

主訴:繰り返す出血、近医で白血球減少と血小板減少を指摘された。

キーワード:芽球の出現, 前骨髄球60%, 遺伝子異常などの記載が無い

末梢血中に芽球が出現していると記載があるので白血病とわかります。加えて、末梢血には通常出現することのない前骨髄球がいます。骨髄球系の白血病だと言ってよいでしょう。骨髄血塗抹標本を見てどんな白血病かを診断しないと治療薬が選べませんが、問題文中に遺伝子異常の記載がないのがポイントです。

つまり、形態が特徴的な(裏返せば、形態を見ずとも診断できる)疾患ということです。ということで、形態が特徴的な骨髄球系の白血病は急性前骨髄球性白血病です。治療はATRA(all-trans-retinoic acid、全トランス型レチノイン酸)です。

画像を確認しましょう。

APL, M3の血液像

画像中央の細胞の核(紫色)の形は丸くなく、いびつです。悪性腫瘍といってよいでしょう。核の近くの細胞質内には、紫色の針状の構造がみられます。この針状の構造物をAuer body(アウエル小体)といい、それをもつ細胞をFaggot cell(ファゴット細胞)といいます。

急性前骨髄球性白血病の一般的な事項についてまとめましょう。

急性骨髄性白血病(AML)のうちのひとつで、FAB分類ではM3(とM3v)にあたります。骨髄や末梢血中に、特徴的な形態を有する前骨髄球の腫瘍性増殖を認めます。

疫学:比較的若い(30から50代)成人に多い。

検査:汎血球減少、線溶亢進型のDIC(腫瘍細胞中に組織因子が豊富)、染色体転座t(15;17)(q22:q12) によるキメラ遺伝子PML-RARA

PML-RARA;15番染色体上のPML遺伝子と17番染色体上のRARA (retinoic acid receptor α)遺伝子の転座によるキメラ遺伝子PML-RARAが形成される。これにより分化(成熟)の異常が起こるとされている。FISHやRT-PCR法により確認する。

治療:寛解導入療法としてATRA(に加えて、アンスラサイクリン、シタラビン、亜ヒ酸)と、DICに対する治療(トロンボモジュリン)

予後:DICを乗り切れば良好である。完全寛解は90%以上である。ATRA投与後に成熟好中球が増加することによるAPL分化症候群(differentiation syndrome: DS)に注意が必要である。DSでは、治療により腫瘍細胞が組織内に遊走し炎症性サイトカインを放出するため全身の臓器障害が生じる。重篤なDSが見られた場合はATRAの中止を考慮する。

ちなみに、病理組織標本では、細胞質内の特徴的な構造物は確認することが出来ません。また、通常は対物40倍のレンズまでしか備わっていないので、微細な構造物の観察はしにくいです。組織像ではこのように見えます。対物40倍相当の組織像を提示します。骨髄で異型細胞がびまん性に増殖しています。

AMLの組織像