医師国家試験問題解説 116D65 血球貪食症候群の細胞像・組織像

本文および選択肢

21歳の男性。発熱と全身倦怠感を主訴に来院した。1週間前に38.5℃の発熱と咽頭痛があり自宅近くの診療所を受診した。解熱鎮痛薬を処方され咽頭痛は軽快したが発熱は続いた。3日前から全身倦怠感も出現し増悪するため受診した。身長165cm、体重58kg。脈拍112/分、整。血圧108/58mmHg。眼瞼結膜は貧血様で、眼球結膜に黄染を認める。咽頭に発赤を認める。両側の頸部に圧痛を伴う径1.5cmのリンパ節を数個触知する。胸骨右縁第2肋間を最強点とするLevine 2/6の収縮期駆出性雑音を聴取する。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、圧痛を認めない。右肋骨弓下に肝を2cm、左肋骨弓下に脾を3cm触知する。四肢に紫斑を認める。血液所見:赤血球232万、Hb 7.1g/dL、Ht 22%、白血球2,200(分葉核好中球21%、好酸球0%、好塩基球0%、単球19%、リンパ球40%、異型リンパ球20%)、血小板1.8万。血液生化学所見:総蛋白6.5g/dL、アルブミン3.1g/dL、直接ビリルビン0.5mg/dL、間接ビリルビン2.2mg/dL、AST 36U/L、ALT 32U/L、LD 1,580U/L(基準120~245)、尿素窒素16mg/dL、クレアチニン0.8mg/dL、血糖78mg/dL。CRP 2.1mg/dL。骨髄血塗抹May-Giemsa染色標本を別に示す。この患者に認められるのはどれか。

マクロファージによる血球貪食が確認できる骨髄像

a 赤芽球低形成

b BCR/ABL融合遺伝子

c 血清フェリチン高値

d GPIアンカー蛋白の欠損

e 血清ハプトグロビン高値

主訴とキーワードの確認

主訴:発熱と全身倦怠感

キーワード:1週間前の発熱と咽頭痛、全身倦怠感、眼球結膜の蒼白と黄染、咽頭の発赤、頚部リンパ節腫脹、肝脾腫(右肋骨弓下に肝を2cm、左肋骨弓下に脾を3cm触知)、異型リンパ球の出現を伴う汎血球減少、間接ビリルビン優位の黄疸、LD高値

要約と考えられる疾患

若年男性の感冒後に、肝脾腫を伴う黄疸が出現しています。異型リンパ球が出現しており、汎血球減少も生じています。

キーワードからは、1週間前のエピソードはEBウイルスによる伝染性単核球症が考えられます(断定はできませんが)。感染症を背景にして、汎血球減少が生じたわけですが、画像を見てその原因を推察しなさいという意図の問題だと思います。

画像の確認

画像を見ると、透明に抜けた小型の空胞を多数有する細胞があります。細胞質内には、赤血球を2つ。丸い小型の核が2つ取り込まれています。いびつな逆三角のような大きい核が、この細胞(マクロファージ)の核だと思います。マクロファージが血球を貪食しており、血球貪食症候群と考えます。

1個の細胞の中に、複数の核がみられ、よく見ると核の断片も混在しています(赤矢印)。血球貪食像をあらわしていると理解しましょう。

選択肢の検討

以上を踏まえて選択肢を確認していきましょう。貪食(溶血)による赤血球減少があるので、赤芽球は過形成になり、ハプトグロビンは低値を示します。異型リンパ球が出現していますが、伝染性単核球症によるものと判断できると思います。フィラデルフィア染色体が出る腫瘍ではありません。正解は血清フェリチン高値です。ウイルス感染細胞をうまく除去できない時に、NK/T細胞が増殖し、過剰なサイトカインを産生することでマクロファージが活性化し、自己血球を貪食します。この高度の炎症に伴いフェリチンが高値を示すと考えます。

HE染色標本ではどう見えるか

血球貪食像が目立つ症例を提示します。日常診断で用いる光学顕微鏡は、対物40倍です。バーチャルスライドで80倍相当の画像から、徐々に拡大率を下げて提示していきます。低い倍率で見ても、「あ、ここに血球貪食像がありそうだ」と見つけられるようになると、良いなと思います。トレーニングしてみてください。

HE染色標本における結球貪食像
HE染色標本における結球貪食像解説付き

矢印が血球貪食像です。青黒い丸い核が貪食されたリンパ球と思いますが、実際のところマクロファージの核を正確に同定するのは写真からは難しいでしょう。薄ピンクの丸い構造(無核)は赤血球です。1個の細胞の中に核が複数あって、赤血球もあります。ほか、核の断片もみぎ上の血球貪食像で確認できます。さて、倍率を下げていきます。

40倍相当です。まだみえますね。

20倍相当です。見えにくいとは思いますが、「ありそう」なのは伝わりますか。いくつかに丸をつけてみます。

10倍はキツイですね。しかしながら、高齢者の骨髄としてはこれは過形成(細胞密度が高い)です。骨髄が過形成であることは何かしらの疾患が隠れていることを示していると思います。

Take home messages

若年者の感冒後の肝脾腫からはEBウイルスによる伝染性単核球症を考える

核塵、核が複数ある、細胞質内に赤血球が有るなどを目印に血球貪食像を疑う

汎血球減少を来す疾患として血球貪食症候群(今回は感染症を原因とする二次性血球貪食症候群)を忘れない