医師国家試験問題解説 116D72 乳頭状尿路上皮癌の肉眼像

問題文と選択肢

66歳の男性。血尿を主訴に来院した。2か月前から肉眼的血尿がみられていた。身長165cm、体重71kg。体温36.4℃。脈拍72/分、整。血圧136/92mmHg。呼吸数16/分。腹部は平坦で、圧痛を認めない。尿所見:蛋白(−)、糖(−)、ケトン体(−)、潜血3+、沈渣に赤血球100以上/HPF、白血球1~4/HPFを認める。腹部超音波検査(A)と膀胱鏡所見(B)とを別に示す。

本患者に対する経尿道的手術治療で起こりうる合併症はどれか。3つ選べ。

膀胱腫瘍のエコー画像と肉眼画像。広基性乳頭状腫瘍が特徴的。

a 尿道狭窄

b 膀胱穿孔

c 逆行性射精

d 腹圧性尿失禁

e 急性前立腺炎

主訴とキーワードの確認

主訴:血尿

キーワード:肉眼的血尿(おそらく無症候性)

無症候性の肉眼的血尿と膀胱の広基性乳頭状腫瘍

(おそらく無症候性の)肉眼的血尿がみられており、画像では膀胱に腫瘍が確認できます。エコーと膀胱鏡で、腫瘍は広く膀胱に接しています。腫瘍は表面がぽこぽことしています。広基性乳頭状腫瘤であり、膀胱癌に特徴的な肉眼所見です。

膀胱癌の診断と治療の一般的事項の確認

膀胱癌は、診断と治療を兼ねて、TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)により腫瘍組織を採取し(深達度判定にはMRIも有用です)、病理診断を行い筋層浸潤の有無を決めます。筋層浸潤がなければ、リスクに応じて、膀胱内に抗がん剤やBCGを注入もしくは再度TURを行うなどから選択します。筋層浸潤あり、転移なしでは膀胱全摘±術前ないし術後化学療法が標準的です。転移ありの場合は化学療法(GC療法; ゲムシタビンとシスプラチン)が標準的です。

TURBTとTURPの違い

さて、問題は治療の合併症にかかわることなので、ここで触れる必要はないのかもしれませんが、特徴的肉眼像を取り上げたいために解説を始めてしまったので、せっかくですから解いていきましょう。

膀胱腫瘍を切除するためには、ループ状の電気メス(ニキビ治療のコメドプッシャーみたいな)で腫瘍を焼きながら切除します。その電気メスを膀胱まで挿入するのですが、尿道、前立腺を通過する必要があります。

ですから、正答は、a, b, eの尿道狭窄(挿入経路)、膀胱穿孔(腫瘍部の削りすぎ)、急性前立腺炎(挿入経路)です。

d, eの逆行性射精と腹圧性尿失禁は、TURBTと比較するのであれば、前立腺肥大症に対して経尿道的前立腺切除術(TURP)をした際の合併症です。前立腺は膀胱頚部から尿道を囲うように存在しています。精液は尿道を通り射精されますが、膀胱頚部の内尿道括約筋により通常は膀胱に逆流しません。TURPでは尿道内から前立腺をかきとるように切除していきますので、内尿道括約筋の損傷が生じやすいです。また、腹圧性尿失禁については、括約筋損傷のほか、もともと下部尿路閉塞があったので膀胱が過活動になっているためなどが考えられます。