医師国家試験問題解説 116D73 乳頭部癌の診断

問題文と選択肢

76歳の男性。上腹部痛を主訴に来院した。2か月前から食後に軽度の上腹部痛を感じるようになり、改善しないため受診した。60歳時から高血圧症のため内服加療している。喫煙歴と飲酒歴はない。眼瞼結膜と眼球結膜に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球398万、Hb 12.8g/dL、白血球8,100、血小板28万。血液生化学所見:総ビリルビン1.4mg/dL、AST 80U/L、ALT 104U/L、ALP 152U/L(基準38~113)、アミラーゼ180U/L(基準37~160)、尿素窒素12mg/dL、クレアチニン0.6mg/dL。上部消化管内視鏡検査の十二指腸下行脚像(A)と生検組織のH-E染色標本(B)を別に示す。同日に行った腹部超音波検査で主膵管の拡張を認める。

次に行う検査として適切なのはどれか。3つ選べ。

a 腹部造影CT

b 超音波内視鏡検査

c 小腸バルーン内視鏡

d 小腸カプセル内視鏡

e 磁気共鳴胆管膵管撮影〈MRCP〉

乳頭部癌の内視鏡像
乳頭部癌の組織像(分化型の腺癌)

主訴とキーワードの確認

主訴:2ヶ月前からの、食後の上腹部痛

キーワード:上部消化管内視鏡検査の十二指腸下行脚像と生検組織の提示

正答を出すだけなら

問題を解くだけでしたら、c, dを除いたa, b, eが正解です。というのも、小腸バルーン内視鏡と小腸カプセル内視鏡は、上部および下部消化管内視鏡検査で届かない領域の小腸を観察するための方法です。これらの方法を用いるときは、小腸に病変があることがわかっているときや、上部消化管内視鏡検査でみつけられない貧血の精査などがあげられると思います。

この問題では上部消化管内視鏡検査で病変が観察できているので、それらを除いたものが正解です。CTや超音波内視鏡、MRCPにより、病変の深達度やリンパ節転移、遠隔転移の有無などを調べ、手術適応の有無などが判断されます。

組織像の確認の前に

まずは既存の小腸粘膜を確認していきましょう。小腸粘膜は絨毛構造がみられます。絨毛構造に沿った面で薄切するのは難しいので、低倍率の観察では、ひし形の角張った構造がたくさん浮いているように見えます(立体構造を平面で見ているため)。

小腸粘膜の拡大

小腸粘膜(非腫瘍)の拡大

次は拡大をあげてみましょう。解説付きはこの説明の下です。細長い角をもった細胞が、基底膜側に整列しています。わずかに頭が抜けた細胞もありますが、核の配置が表層に位置することはありません。そして、核の短軸の長さはリンパ球の核と同じくらいです。核の配置が基底膜側にそろっていることを、「極性が保持されている」と表現します。例外もありますが、核の大きさがそろっていること(核の大小不同がない)は良性を支持する所見の一つです。病理画像はおおむね拡大一枚で出されることが多く、構造異型(既存の構築からどれほど逸脱しているか)を判断することが困難な場面が多そうです。「極性の乱れ」と「核の大小不同」は癌かどうかの判断に有用なツールだと思います。

小腸粘膜(非腫瘍)の拡大、解説付き

問題の組織像を確認していきます

さて、問題に戻ります。極性の乱れと核の大小不同に注目すると、癌であることがわかるとおもいます。また、主として乳頭状に増殖しているのがわかります。一部に腺管(白く穴が開いている)もみえます。腺癌と診断ができます。

乳頭部癌の組織像(解説付き)

Take home messages

癌かどうかの判断には、極性の乱れと核の大小不同に注目するとよい

Advanced: 癌の診断のためには、既存の構築からどれほど逸脱しているかを考えよう(面倒かもしれないけど、正常構造と見比べよう)