医師国家試験問題解説 (117A39) 顔面の黒色ドーム状腫瘤の診断について

問題文と解答

50歳の男性。右頬部の皮疹を主訴に来院した。約10年前から徐々に隆起してきた。自然に出血はしない。掻痒と疼痛はない。右鼻唇溝に直径5mmの隆起した黒褐色の結節を認める。右頸部リンパ節の腫脹は認めない。結節を切除した。術前の右鼻唇溝部の写真(A)と切除検体のH-E染色標本(B)とを別に示す。

診断はどれか。

a Bowen病

b 悪性黒色腫

c 基底細胞癌

d 色素性母斑

e 脂漏性角化症

キーワードと主訴

病理一発問題ではありますが、丁寧に見ていきます。

・10年前からのみぎ頬腫瘤(ゆっくり大きくなった)

・直径は5 mm(大きくない)

・出血はない(びらんや潰瘍形成がない)

・リンパ節腫脹がない(リンパ節転移がない)

提示画像の確認(肉眼像)

写真問題ですので、肉眼像を確認していきましょう。ほぼ正円に近い、黒色のドーム状(半球状)隆起です。色調や形の不整はなく、選択肢にあります悪性黒色腫を考えるようなABCDEルールに該当する項目はありません。

ABCDEルール

悪性黒色腫ではありませんが、それを考える指標としてABCDEルールがあります。今回の病変はそれにあてはまらないのですが、そのことを改めて確認していきましょう。

A:asymmetry(非対称性)

B:border irregularity(辺縁が不整)

C:color variegation(色調が多彩)

D:diameter enlargement(病変径6 mm以上)

E:evolving lesions(経過により変化があるか)

よって、肉眼像や臨床経過から、少なくとも悪性黒色腫は除外できると思います。肉眼像からもっと鑑別ができるのかもしれませんが、せっかくですからあとは病理組織像でみていきましょう。(表面に痂皮の付着などはなく、角化性の病変(Bowen病や脂漏性角化症)でないことも言えると思います)

病理組織像解説

病変は真皮に限局しており、表皮(基底側)との連続性はありません。また、病変の浅い層では細胞が丸い塊を形成し増殖しています。メラニンと考える、褐色色素顆粒も浅いところに目立ちます。

深いところに目をやると、塊の形は不整で、丸くないものが目立ちます。あるいは小型化したりしています。褐色色素は目立ちません。この、表層から深部への移行を成熟(maturation)といい、良性の色素性母斑に重要な所見です。補足ですが、ものによっては、深部では神経細胞のように細胞や核が紡錘形化(核はコンマ状)したり、神経線維のように流れるような配列をしめすものもあります。

病変全体に言えることですが、核分裂像が指摘できないと思います。

以上より、真皮を主座とする病変で、かつ良性のものを選べば正答です。答えはdの色素性母斑(母斑細胞性母斑)です。

正答率が低い問題だったようです

昨年は悪性黒色腫の肉眼像がでました(116D57、爪の肉眼像)。今年は良性の色素性母斑(いわゆるほくろ)が出題されています。肉眼的にもツルッときれいな黒色腫瘤がみられ、悪性黒色腫と間違うことはないと思います。また、増殖のスピードが緩やかな経過から悪性は選びにくいと思いますが、そこからさらに絞り込むのは難しかったかもしれません。病理組織像をみる力が比較的要求されている問題であり、それが正答率の低さ(40%以下)に直結しているのでしょう(つまり、国家試験本番で解ける必要はなく、合否に直結しない)。Bowen病や基底細胞癌、脂漏性角化症でもメラニン沈着を伴うことがあり、難しさを増長しているのでしょうか。2問前(117A37)では基底細胞癌が出題されており、それで余計に迷った方もおられるのではないでしょうか。一度出題された以上は、せっかくですからよく味わって血肉としましょう。悪性黒色腫と比較する上でもよい対比の材料となると思います。

Take home messages (国家試験突破には必須とは言えないかもしれませんが、一応)

臨床経過や肉眼像から良性っぽさを読み取ろう

病変の主座(表皮か、表皮基底層か、真皮か)を組織像から読み取ろう