医師国家試験過去問題解説 116D56 HBV再活性化

77歳の女性。意識障害のため救急車で搬入された。介護老人保健施設に入所中である。3日前から物忘れがひどくなり、自分がどこにいるかも分からなくなっていた。施設職員からの情報では、1年前まで自宅近くの医療機関で非ホジキンリンパ腫の治療が行われ、「治癒した」と言われていたが、施設入所後は施設から遠いので通院していないとのことであった。呼びかけには反応するが、傾眠状態である。尿失禁はない。体温37.2℃。心拍数96/分、整。血圧96/62mmHg。呼吸数14/分。SpO2 96%(room air)。血液所見:赤血球398万、Hb 12.5g/dL、Ht 40%、白血球6,300、血小板16万、PT-INR 2.1(基準0.9~1.1)、FDP 25μg/mL(基準10以下)。血液生化学所見:総蛋白6.4g/dL、アルブミン3.5g/dL、総ビリルビン3.2mg/dL、直接ビリルビン1.8mg/dL、AST 3,956U/L、ALT 2,824U/L、LD 986U/L(基準120~245)、ALP 158U/L(基準38~113)、γ-GT 686U/L(基準8~50)、アミラーゼ130U/L(基準37~160)、尿素窒素13mg/dL、クレアチニン1.0mg/dL、血糖121mg/dL、Na 134mEq/L、K 3.8mEq/L、Ca 9.0mg/dL、P 4.1mg/dL、アンモニア186μg/dL(基準18~48)。免疫血清学所見:HBs抗原陽性、HBV-DNA陽性、HCV抗体陰性。頭部単純CTで明らかな異常を認めない。非ホジキンリンパ腫治療前のB型肝炎ウイルスマーカーはHBs抗原陰性、HBs抗体陽性、HBc抗体陽性であった。

考えられる疾患はどれか。

a 原発性硬化性胆管炎

b 被包化膵臓壊死

c 急性膵炎

d 急性肝炎

e 劇症肝炎

まずは主訴とキーワードの確認を

主訴:意識障害

キーワード:1年前まで自宅近くの医療機関で非ホジキンリンパ腫の治療が行われていた、傾眠状態、PT-INR 2.1、総ビリルビン3.2mg/dL、AST 3,956U/L、ALT 2,824U/L、アンモニア186μg/dL、HBs抗原陽性、HBV-DNA陽性、リンパ腫治療前はHBs抗原陰性、HBs抗体陽性、HBc抗体陽性

意識障害の原因は?

JCS2桁の意識障害があります。その原因としてアンモニアが上昇しています。アンモニアが上昇するのは肝疾患なので、肝性脳症(本例の傾眠傾向はⅡ度、羽ばたき振戦はⅢ度です)を伴う肝炎を選べばよいですから、劇症肝炎が正解です。

劇症肝炎の定義の確認

ちなみに、劇症肝炎の定義は「肝炎のうち初発症状出現後 8 週以内に高度の肝機能異常に基づいて昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症をきたし、プロトロンビン時間が 40%以下(PT-INR1.5以上)を示すもの」です。

この問題に組織像は出ていませんし、問題を解く上で特段の知識を必要とするわけではありませんが、この問題は手を変え品を変え繰り返し出題されると思います。社会的に重要な疾患であり、一旦この病態になってしまうと予後が不良です。病理医としては剖検で出くわすことがあります。

問題文では通院を自己都合で中断したかのような記載がありますが、「病院くるの大変でしょう」とか、「リンパ腫は治ったので通院は不要です」や、「次回は何かあった時に受診で結構です」とか言ってはいけません。

救急外来で、担がん患者、HBVキャリアないし既感染、意識障害の三拍子そろっている患者をみたら絶対に家に帰してはいけません(帰そうと思う人はいないでしょうし、本来はその病態にしてはいけないのですが)。

本例はHBV再活性化による劇症肝炎

前置きが長くなりました。本例は免疫抑制・化学療法により発症したB型肝炎です(HBV再活性化)。

キャリアからの再活性化と、既往感染者からの再活性化に大別され、後者はde novo B型肝炎と呼ばれます。

HBV再活性化による肝炎は重症化しやすく、原疾患(がんや、リウマチなどの自己免疫性疾患など)の治療の継続を困難にします。

HBV再活性化をきたす原因は

原因となる薬物は、免疫抑制剤、副腎皮質ステロイド、抗がん剤など多岐にわたりますが、抗CD20モノクローナル抗体薬のリツキシマブは有名です。本例ではHBs-Ag (-), HBc-Ab (+), HBs-Ab (+) なので(定期的な)HBV DNAの定量が必要であり、それによって再活性化を早期にみつけることができれば、今回のような劇症肝炎を防ぎ得た可能性があります。

詳しく学びたい方はB型肝炎治療ガイドラインが載っている、日本肝臓学会のページをごらんください。

Take home messages

免疫抑制状態の(担がん)患者、HBVキャリアないし既感染、意識障害をみたらHBV再活性化を疑う

免疫抑制・化学療法前にHBs抗原を確認する。陽性の場合は、すみやかに核酸アナログ投与を行う

免疫抑制ないし化学療法予定の患者がHBV既往感染ないしHBVキャリアの場合は、HBV DNAの(定期的な)モニタリングを行う