医師国家試験問題解説 116A67 原発性胆汁性胆管炎の組織像

44歳の女性。人間ドックで肝機能障害を指摘され来院した。輸血歴、飲酒歴、家族歴に特記すべきことはない。眼球結膜に黄染を認めない。血液所見:赤血球496万、Hb 14.8g/dL、Ht 44%、白血球5,200、血小板25万。血液生化学所見:総蛋白7.5g/dL、アルブミン3.9g/dL、AST 26U/L、ALT 32U/L、ALP 238U/L(基準38~113)、γ-GT 266U/L(基準8~50)。免疫血清学所見:HBs抗原陰性、HCV抗体陰性。肝生検組織の門脈域のH-E染色標本を別に示す。

PBC、CNSDC 原発性胆汁性胆管炎、慢性非化膿性破壊性胆管炎

予想される血液検査値はどれか。2つ選べ。

a IgM高値

b 胆汁酸低値

c 総コレステロール低値

d 抗ミトコンドリア抗体陽性

e α-フェトプロテイン〈AFP〉高値

主訴と本文中のキーワードの確認

主訴:なし(人間ドックで肝機能障害を指摘)

キーワード:HBs抗原陰性、HCV抗体陰性、飲酒歴なし、家族歴なし、アルブミン3.9 g/dL, 胆道系酵素優位の血液検査データ

慢性肝炎の原因(以前)

慢性肝炎が持続することで肝硬変にいたり、肝不全でなくなったり、肝細胞癌の発生原因になったりします。慢性肝炎の原因として、以前はHBV, HCVが主因でした。

HBVは2016年(平成28年)10月からワクチンが定期接種となり、予防可能な疾患となりました。母親がHBVキャリアでなければ、生後2ヶ月、3ヶ月、7-8ヶ月で3回のワクチン接種を受けます(1歳になるまでに3回接種する)。母がHBVキャリアの場合は、生後12時間以内にワクチンおよび抗HBsヒト免疫グロブリンを投与するのが望ましいとされています。また、C型肝炎の治療薬もあります。

現在の慢性肝炎は、NAFLD, AIH, PBC, PSCが主役

ウイルス性肝炎の予防や治療が可能となり、慢性肝炎の疫学は大きく変化しました。現在は、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)やアルコール性肝疾患、自己免疫性肝炎 (autoimmune hepatitis; AIH)、原発性胆汁性胆管炎 (primary biliary cholangitis; PBC)、原発性硬化性胆管炎 (primary sclerosing cholangitis; PSC) などが慢性肝炎の主因としてあげられると思います。

国家試験を前提とした場合は、いずれも特徴的な臨床像・組織像がみられます。それらをセットで覚えておくとよいでしょう。

本文をあらためて確認すると

本例では、アルコール性は否定的で、遺伝性の肝疾患も考慮しなくてよいでしょう。また、肝逸脱酵素の上昇よりも胆道系酵素の上昇が目立ちます。そうすると、病歴からはアルコール性が除外され、検査データからはPBC, PSCが鑑別となります。

PBC, PSCの(組織学的な)鑑別は

PSCについては、「大型」胆管の狭窄による胆汁流出障害が特徴的です。そのため、肝生検で採取できるような胆管がターゲットになっていることは少なく、肝生検でPSCかどうかについて診断をすることは難しいのが実情です。なので、MRCP, ERCPなどで臨床診断がついていることが多いです。組織学的には胆管周囲の輪状の線維化が有名ですが、診断基準にはのっていません。実際のところは、PSCの診断には、ほかの鑑別になるようなIgG4関連の硬化性胆管炎やほかの続発性硬化性胆管炎の除外が必要です。胆管狭窄や胆汁流出障害をきたす他の原因がないかを検討するため、肝生検が行われることが多いと思います。

今回も、組織像を見ずとも解答は出せる

長くなりましたが、胆道系酵素の上昇が見られている状況で肝生検の組織像がのっている以上、診断はPBCです。肝生検で採取できるような門脈域は小型です。PBCは小型の胆管に傷害が起こることが多いです。

病理がわからなくても問題が解けてしまうことを自らが解説しているようでとても悲しいのですが、この手の問題にここまで時間をかけるのはもったいないですし、病理がわかれば診断が一瞬でできるので、病理の理解がとても有用であるのは間違いないでしょう。

さて、PBCに合致する所見を選べば良いので、IgM高値、抗ミトコンドリア抗体陽性のa, dを選びましょう。胆道系酵素の上昇が見られている、つまり胆汁うっ滞が予想されるので、b, cは誤り(むしろ逆)です。e についてはPIVKA-Ⅱと同様に、腫瘍マーカーとしての役割が大きいと思います。

せっかくですから組織像も確認していきましょう

腺上皮(偏在する核に丈の高い上皮)よりなる腺管が大小あわせて2個あります。これが胆管です。胆管上皮に侵入するように、紫色の濃い単核細胞がパラパラ存在しています。胆管上皮傷害の像です。胆管周囲にも、紫色の濃い単核細胞(リンパ球)が無数に存在しています。胆管を中心に(というか組織像中には上皮は胆管しか無いのですが)、リンパ球を主体とした炎症性細胞浸潤が密に生じています。これが慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC, chronic non-suppurative destructive cholangitis)です。化膿性は好中球性です。

原発性硬化性胆管炎(PBC)の病理組織画像解説。慢性非破壊性化膿性胆管炎(CNSDC)を認める。

PBCに特徴的な組織像として、CNSDCに加えて肉芽腫性胆管炎があります(別ページで提示)。ですが、実務上(実際に病理診断をする上で)これらの所見が確認できる場面は少ないです。ここでPBCの診断基準を確認してみると、そもそも病理診断が必須ではありません(臨床診断が可能な疾患です)。CNSDCがあっても、PBCとして矛盾しない臨床所見が確認できていることが必要です(AMA陽性など)。もしくは、CNSDCがなくても、PBCに矛盾しない組織像が確認できればPBCと診断可能です。

では、肝生検が行われ、CNSDCや肉芽腫性胆管炎が確認できない時に、どういう組織像がPBCに矛盾しないものなのでしょうか。国家試験問題の解説からはテーマが逸脱してしますので、この頁では割愛いたします。