問題文と選択肢
切除不能の悪性黒色腫に使用される抗体薬の標的抗原はどれか。
a IL-17
b EGF受容体
c IL-6受容体
d PD〈programmed cell death〉-1
e VEGF〈vascular endothelial growth factor〉
悪性黒色腫の治療方針についてのガイドライン
悪性黒色腫の治療方針を確認していきましょう。日本皮膚科学会ホームページでみることのできる、皮膚悪性腫瘍ガイドライン第3版 メラノーマ診療ガイドライン2019や、悪性黒色腫薬物療法の手引き2022で確認できます。どういった薬物を使うかを確認するためだけであれば、後者が簡潔です。
切除可能な悪性黒色腫は切除が基本です
問題文から離れますが、腫瘍が局所に限局している場合は(リンパ節転移があっても良い)、局所切除(+リンパ節郭清)です。リンパ節郭清の適否を検討するため、センチネルリンパ節生検も行われています。
蛇足ですが、手術が適応な段階でも、術前ないし術後補助化学療法が行われる場合もあります。
本題、切除不能な悪性黒色腫の治療方針について
悪性黒色腫にはBRAF V600Eを有するものが多い。
さて、局所切除が不能な悪性黒色腫の場合は、薬物療法を行います。悪性黒色腫は細胞増殖を司るMAPKの構成要素のうちBRAF変異(そのうち圧倒的にBRAF V600E変異が多い)を有するものが多く(数十パーセント)、その阻害薬を使用することで腫瘍の増殖を抑えることができます。
BRAF V600E:BRAFを構成するアミノ酸のうち、最初から600番目のバリン(V)がグルタミン酸(E) に置き換わったもの。
BRAF V600Eは活性化型変異であり、それにより細胞増殖のシグナルが恒常的にオンになっています。BRAFの下流にはMEK, ERKがあります。治療の実際は、BRAF阻害薬とその下流のMEK阻害薬を併用します(使用する薬物の名前は問われないと思います)。組み合わせは以下のとおりです。いずれも1剤目がBRAF, 2剤目がMEK阻害薬です。文末がニブなので、チロシンキナーゼ阻害薬ですね。
組み合わせ1. ダブラフェニブ+トラメチニブ
組み合わせ2. エンコラフェニブ+ビニメチニブ
BRAF阻害薬は単独で使用しない
なぜBRAF阻害薬単独で使用しないのかの理由の一つに、BRAF阻害薬で非病変部の皮膚に腫瘍(扁平上皮癌)が生じてしまうからと言われています(Gibney GT, Messina JL, Fedorenko IV, Sondak VK, Smalley KS. Paradoxical oncogenesis-the long-term effects of BRAF inhibition in melanoma. Nat Rev Clin Oncol. 2013 July;10:390-9.)。
BRAF阻害薬により、BRAF変異のない部分(健常皮膚)ではMAPKがむしろ活性化してしまうようです。それを抑えるためにMEK阻害薬を併用します。ほか、BRAF阻害薬のみでは耐性獲得が早く、併用でそれが遅くなることが期待できるようです。
免疫チェックポイント阻害薬が常に適応である
また、BRAF変異があってもなくても、免疫チェックポイント阻害薬が適応です。使用前にPD-L1の免疫染色による確認などは必要ありません。薬物名の文末がマブなので、モノクローナル抗体ですね。
1. PD-1モノクローナル抗体(ニボルマブ)+CTLA-4モノクローナル抗体(イピリムマブ)
2. ニボルマブ単剤
3. ペンブロリズマブ単剤(PD-1モノクローナル抗体)
Take home messages
切除不能な悪性黒色腫の薬物療法は、PD-1モノクローナル抗体(+CTLA-4モノクローナル抗体)である。
BRAFの活性化型変異(V600Eが最多)がある場合は、BRAF阻害薬+MEK阻害薬の併用も選択肢にあがる
BRAF阻害薬のみの使用だと、健常皮膚に扁平上皮癌が生じてしまう