115A46 慢性好酸球性肺炎の組織像と細胞像

問題文と選択肢

54歳の女性。咳嗽と喀痰を主訴に来院した。喀痰は白色であり、発熱はなかった。自宅近くの診療所を受診し、胸部エックス線写真で異常陰影を指摘され、細菌性肺炎として抗菌楽の投与を受けたが陰影は増強したため紹介され受診した。3か月前にも胸部エックス線写真で異常陰影を指摘されたが、症状が軽かったため経過観察したところ自然軽快したエピソードがあった。気管支鏡検査を施行し、気管支肺胞洗浄液中の好酸球は37%で、経気管支肺生検では好酸球浸潤を伴った肺胞隔壁の線維化病変を認めた。

この疾患について正しいのはどれか。

a 高齢者に多い。

b 喫煙が発症に関与する。

c 気管支喘息の合併が多い。

d ステロイド抵抗性である。

e 末梢血好酸球は正常である。

主訴とキーワード

主訴:咳嗽と喀痰

キーワード:54歳女性、喀痰は白色、発熱はない、抗菌薬は無効、自然軽快することもある、気管支肺胞洗浄液中の好酸球は37%、好酸球浸潤を伴う肺胞隔壁の線維化

設問の狙い(急性好酸球性肺炎と慢性好酸球性肺炎の比較)

壮年女性に好発する原因不明の慢性好酸球性肺炎と、多くは若年者の喫煙し始めの(あるいは本数が増えた、禁煙を経ての再開をした)ひとに好発する急性好酸球性肺炎との比較ができているか、に関する問題です。慢性好酸球性肺炎は、難病情報センターに概要の記載があります。

正答の確認

選択肢を見ていきましょう。この問題の回答はc. 気管支喘息の合併が多い、です。

a. について、好酸球性肺炎は、慢性の場合は壮年女性に多く、急性の場合は喫煙したての(10-)20代に多いです。未成年で喫煙をしている場合もあるので、家族と来院した場合は問診に注意を払う必要があるでしょう。

b. 喫煙との関わりが言われているのは急性好酸球性肺炎です。慢性の場合は原因が不明です。

d. 治療はステロイドです。

e. 末梢好酸球数は増加します。急性好酸球性肺炎の場合は基準範囲内です。

慢性好酸球性肺炎の病理組織像および細胞像(肺胞洗浄液)

慢性好酸球性肺炎の組織像および細胞像

慢性の経過をたどる原因不明の肺炎として、生検されることがあります。急性好酸球性肺炎の場合は喫煙の関与が示唆されていることもあり、病理に検体が提出されることは少ないでしょう。

組織像は線維化を伴う好酸球浸潤が見られ、細胞像では好酸球浸潤が目立ちます。その病理所見のみから慢性好酸球性肺炎と診断することはできませんが(たとえば寄生虫などの感染症でも好酸球浸潤が目立ちます)、それらの画像を見ていきます。

まずははじめに、ほぼ異常がない肺組織を見ていきます。

ほぼ正常の肺組織

対物10倍相当です。肺胞隔壁は薄皮一枚です。組織標本では、空気は白く抜けて見えます。ガス交換の場という特性上、特に疾患がなければ空気がほとんどかもしれません。

続いて、慢性好酸球性肺炎の臨床診断で経気管支肺生検が行われました。

肺胞隔壁はさきほどのようにペラペラではなく、しっかりしています。線維性に肥厚しています。この拡大ではわかりませんが、隔壁中や肺胞腔内には好酸球浸潤がみられます。

慢性好酸球性肺炎

拡大を上げていきましょう。

隔壁中および肺胞腔内の好酸球浸潤が見えます。

慢性好酸球性肺炎

別症例です。同様に、肺胞隔壁の(線維性)肥厚と隔壁中の好酸球浸潤がみられます。

つづいて、気管支肺胞洗浄液の細胞診を見ていきます。低い拡大から倍率をだんだん上げていきます(10, 20, 40, 80倍相当)。

好酸球性肺炎の細胞像

中心にある細胞の集まりが好酸球です。拡大を上げていきます。

好酸球性肺炎の細胞像

HE染色標本では、好酸球は細胞質に赤い顆粒をたくさん蓄えていましたが、パパニコロウ染色では見え方がやや異なります。更に拡大を上げていきます。

好酸球性肺炎の細胞像

パパニコロウ染色では、好酸球はくすんだ色をした顆粒を有しています。やや赤みがかっているようにも見えますが、HE染色での真っ赤な顆粒とは異なって見えます。

好酸球性肺炎の細胞像

まとめ

以上、慢性好酸球性肺炎の臨床診断での組織像および細胞像です。繰り返しになりますが、慢性好酸球性肺炎の診断には、これらの所見のみではなく、臨床情報をあわせて総合判断する必要があります。

具体的には、慢性的な経過をしているという時間の情報や、ステロイドの治療で症状が改善するという治療反応性であったり(これも時間の情報ですが)、抗菌薬が無効だったり喀痰培養などで細菌が検出されないことなどの情報が有用だと思います。

病理は検体採取時の情報を反映します。現在の組織像から過去あるいは未来を推測することが可能なシーンはたまにありますが、そう多くありません。また、治療の前後で検体が採取されていればその比較が可能になりますが、やはりそのようなケースはそう多くありません。

特に非腫瘍性疾患の場合は、鑑別となる疾患や時間の経過などの臨床情報がとても重要です。病理と臨床所見の掛け算で、より正しい診断にたどり着くことができると思っています。

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慢性好酸球性肺炎の特徴的患者背景は、壮年女性の喘息の既往が有る非喫煙者

急性好酸球性肺炎の特徴的患者背景は、若年男性の新規喫煙者