問題文と選択肢
2歳の男児。左眼の瞳孔内が白いことに母親が気付いて来院した。発育に問題なく、普段の生活で見え方に不自由なさそうである。考えられる疾患はどれか。2つ選べ。
a 先天白内障
b 先天緑内障
c 瞳孔膜遺残
d 先天角膜混濁
e 網膜芽細胞腫
白色瞳孔について
正答率が低かった問題です。白色瞳孔を来す疾患として記憶しておく必要があるのは、白内障と網膜芽細胞腫です。光路は角膜、水晶体、硝子体、網膜であり、角膜よりあとの成分が白くなると白色瞳孔を来しうるでしょう。白内障は水晶体が混濁して白くなる疾患です。網膜芽細胞腫は網膜に生じる、眼球内を占める白色腫瘤です。後ほどお示ししますが、比較的小型の細胞が高い細胞密度で増殖する腫瘍のため、それが白色を反映していると思います。なお、瞳孔は角膜と水晶体との間にあります。角膜混濁だと瞳孔の外側の虹彩も白く見えてしまいます。
動画で白色瞳孔をみてみる(論文の紹介)
偽性白色瞳孔ですが、白色瞳孔の見え方として論文が出ていました。論文のsupporting infomationに動画もありました。とても参考になると思います。
網膜芽細胞腫について(二次がんの発生に注意が必要)
網膜芽細胞腫の発生には、がん抑制遺伝子RB1の変化が関わっています。がん抑制遺伝子ですので、2対の遺伝子の両方に変化がなければ発生しない腫瘍です。あらかじめ一方の遺伝子に変化が加わっている遺伝性のものもあれば、遺伝の要素のない孤発例もあります。遺伝性の場合は、網膜芽細胞腫以外にも腫瘍を発生しやすい(二次がんの発生)ことがあり、長期に渡る経過観察が必要と言われています。日本遺伝性腫瘍学会の一般向けのページが平易で簡潔です。
網膜芽細胞腫の組織像
眼球内の紫色が腫瘍です。眼球自体、あるいは腫瘍も柔らかいため切り出しの際に若干の「ずれ」が生じています。
腫瘍の拡大を上げます。分化のよいものでは、腫瘍が花冠状に配列するロゼットが観察できますが、この症例では目立ちません。壊死が目立ち、腫瘍は血管周囲性に増殖しています。
さらに拡大を上げます。腫瘍細胞の核は均一に濃い紫色で、核小体ははっきりしません。また、細胞質ははっきりとせず、N/C大です。腺管や角化などもみられません。そのような、繊細なクロマチンを有する裸核状の異型細胞がびまん性に(=特定の配列を示すことなく)増殖しています。
以上が網膜芽細胞腫の組織像です。HE染色標本では、腫瘍は濃い紫色に見えますが、肉眼的には白色に見えます。瞳孔を通して白い腫瘍が見えるため、白色瞳孔を呈するのでしょう。
網膜芽細胞腫以外の眼球内腫瘍
眼球内に発生する腫瘍の代表として、ほかに悪性黒色腫があります。
視神経直上に、黒い腫瘤が見えます。拡大を上げます。
茶色い顆粒を有する細胞が増殖しています。核小体が明瞭で、核は丸くなくいびつです。異型のある細胞が色素を有しており、悪性黒色腫と診断して良いでしょう。なお、国家試験では重要ではありませんが、実は意外と核内細胞質偽封入体が多いです(丸囲み)。封入体といえば甲状腺乳頭癌!ですが、そればかりではありませんね。
Take home messages
白色瞳孔を来す疾患として、白内障と網膜芽細胞腫を覚えておく
遺伝性の網膜芽細胞腫の場合は、ほかの悪性腫瘍(二次がん)が発生しやすい状態であるため、継続した経過観察が必要である
眼球内の悪性腫瘍として、網膜芽細胞腫と悪性黒色腫がある