115D60 天疱瘡、類天疱瘡を含む水疱性疾患の鑑別

問題文と選択肢

73歳の女性。口腔粘膜疹と皮疹を主訴に来院した。2か月前から口腔粘膜にびらんを生じ、摂食時に疼痛を伴うようになった。自宅近くの診療所でうがい薬を処方されたがびらんが拡大し、2週前から皮膚にも水疱とびらんが出現したため受診した。受診時、歯肉と口蓋部に発赤を伴うびらんを多数認める。体幹と四肢には径15mmまでの紅斑、水疱、びらん及び痂皮を認める。皮膚生検で表皮基底層直上に裂隙を認め、棘融解像を伴う。蛍光抗体直接法では表皮下層を中心に表皮細胞間にIgG、C3の沈着を認める。口腔粘膜(A)と上肢(B)の写真及び生検組織のH-E染色標本(C)を別に示す。最も考えられるのはどれか。

a 後天性表皮水疱症

b 尋常性天疱瘡

c 水疱性類天疱瘡

d 疱疹状皮膚炎

e 落葉状天疱瘡

主訴とキーワード

主訴:口腔粘膜疹と皮疹

キーワード:口腔粘膜にびらん、びらんが拡大、皮膚にも水疱とびらんが出現、体幹と四肢に紅斑、水疱、びらん及び痂皮、皮膚生検で表皮基底層直上に裂隙と棘融解像、蛍光抗体直接法で表皮下層を中心に表皮細胞間にIgG、C3の沈着

はじめに

問題文を読むだけで正答にたどり着ける問題です。そのため組織像の理解は必須ではありませんが、疾患から組織像を想起できると問題が解きやすいでしょう。また、問題文にもある通り蛍光抗体法による検索が有用です。つまり、組織像のみで診断が確定するものではありません。このように、炎症性疾患は、臨床と病理の所見を合わせて総合判断するものが多いです。

実際には、生検(多くはパンチ生検)検体を皮膚の層構造がわかるように2分割して(細長い検体が取れるので縦に2分割する)、片方を形態の観察(病理診断用)に、もう片方を蛍光抗体法用に提出する(多くは外注でしょうか)と、1回の生検で病理も蛍光抗体法もできます。誤って水平に切って皮膚部分を病理に、皮下組織を外注に出したりすると(あるいはその逆も)、十分な検索ができません。

天疱瘡群、類天疱瘡群の鑑別(組織学的な鑑別と自己抗体)

・落葉状天疱瘡:天疱瘡と名がついていますので(弛緩性の)水疱をつくる疾患ですが、水疱が確認できることは稀です。健常皮膚を擦過すると水疱ができる、Nikolsky現象陽性です。デスモグレイン1に対するIgG自己抗体が蛍光抗体法やELISA(enzyme-linked immune-sorbent assay)で検出されます。デスモグレイン1は表皮の浅層に分布しています。この疾患が口腔粘膜をおかすことは稀です。組織学的に、角層下表皮内水疱がみられますが、かさぶたのように剥がれ水疱として認識することが難しいです。

・尋常性天疱瘡:表皮基底層直上の表皮で離開が生じ、弛緩性の水疱を形成します。尋常性天疱瘡は自己免疫性水疱性疾患の代表で、口腔粘膜のびらんで発症することが多いです(水疱は容易に破れるため、水疱ではなくびらんとして認識される)。デスモグレイン3に対するIgG自己抗体が蛍光抗体法やELISA(enzyme-linked immune-sorbent assay)で検出されます。デスモグレイン3は表皮の深層に分布しています。

水疱性類天疱瘡:これが一番水疱性疾患らしい組織像と言えるでしょう。表皮下に緊満した水疱(破れにくい)が生じます。後天性表皮水疱症とは形態的に鑑別することが困難です。水疱性類天疱瘡では、BP180, BP230に対する自己抗体が、後天性表皮水疱症ではⅦ型コラーゲンに対する自己抗体が検出されます。

落葉状天疱瘡の組織像

落葉状天疱瘡

画像みぎに角層下水疱があります。拡大を上げていきます。

落葉状天疱瘡

水疱は表皮のごく表層に見られています。水疱と言うよりも、表皮のごく表層がかさぶたのように剥がれているようにも見えます。また、画像の左側では顆粒層が少し厚くなっています。

落葉状天疱瘡

別視野です。

落葉状天疱瘡

水疱と言うよりも、かさぶた加減が増しています。これを水疱と言う人は少ないでしょう。

落葉状天疱瘡

別視野です。

落葉状天疱瘡

標本の作成過程で、ただ角層が剥がれただけのようにも見えます。アーチファクト(標本作成過程で生じた人工的な所見)ではなく、角層下水疱性疾患の重要な所見です。

落葉状天疱瘡

尋常性天疱瘡の組織像

尋常性天疱瘡

表皮の深いところでひび割れが生じているように見えます。これも水疱と言われてもいまいちピンときません(ピンとくる方はそれでよいです)。拡大を上げます。

尋常性天疱瘡
尋常性天疱瘡

拡大を上げると、表皮の全層が剥がれているのではなく、表皮の最下層、薄皮一枚が残っています。表皮の基底層が残っていることがわかります。

尋常性天疱瘡

別視野です。

尋常性天疱瘡
尋常性天疱瘡

表皮にはびらんが生じています。

尋常性天疱瘡
尋常性天疱瘡

やはり表皮は基底側一層が残存しています。

尋常性天疱瘡

水疱性類天疱瘡の組織像

水疱性類天疱瘡

低倍率の観察で、水疱が明らかです。

水疱性類天疱瘡

水疱の辺縁をみています。表皮がまるごと浮き上がって水疱ができています。水疱内に炎症性細胞浸潤がみられます。さらに拡大を上げます。

水疱性類天疱瘡

天疱瘡のように、水疱の下に有棘細胞や基底細胞はありません。抜け殻になった真皮乳頭の縁が浮き上がるように観察できます。浸潤している炎症性細胞は好酸球なのですが、この画像ではわかりにくいです。

水疱性類天疱瘡

なお、天疱瘡の概要および診断基準が難病情報センターに掲載されています。また、類天疱瘡と後天性表皮水疱症の概要および診断基準も、難病情報センターに掲載されています

前置きが長くなりました。問題を解いていきます。

問題解説

主訴:口腔粘膜疹と皮疹

キーワード:口腔粘膜にびらん、びらんが拡大、皮膚にも水疱とびらんが出現、体幹と四肢に紅斑、水疱、びらん及び痂皮、皮膚生検で表皮基底層直上に裂隙と棘融解像、蛍光抗体直接法で表皮下層を中心に表皮細胞間にIgG、C3の沈着

これらのキーワードをあらためて確認すると、一見して尋常性天疱瘡であることがまるわかりだと思います。組織像を見ても、表皮基底側の薄皮一枚が残っていて、尋常性天疱瘡として矛盾のない組織像でしょう(再掲します)。

ちなみに、ジューリング(Duhring)疱疹状皮膚炎は、新しい令和6年医師国家試験ガイドラインには載っていませんでした。セリアック病と関連があって、IgAが真皮乳頭に沈着するようです。

Take home messages

・水疱(あるいはひび割れなど)のできる場所で疾患を整理しよう

表皮浅層:落葉状天疱瘡、表皮深層の基底層直上:尋常性天疱瘡、表皮直下:水疱性類天疱瘡

・自己抗体で疾患を整理しよう

デスモグレイン1:落葉状天疱瘡、デスモグレイン3:尋常性天疱瘡、BP180, BP230:水疱性類天疱瘡、Ⅶ型コラーゲン:後天性表皮水疱症

天疱瘡群の所見が見られる場所と自己抗体