115D66 成人型顆粒膜細胞腫の臨床と病理、子宮体癌の合併に注意しよう

問題文と選択肢

61歳の女性。閉経51歳。性器出血を主訴に来院した。6か月前から少量の性器出血が続いている。身長158cm、体重52kg。血圧120/78mmHg。内診で子宮は正常大、左付属器領域に径10cmの腫瘤を触知する。圧痛はなく可動性は良好である。超音波検査で子宮内膜の肥厚(12mm)を認める。腹水と胸水は認めない。子宮頸部細胞診で異型細胞を認めない。子宮内膜組織診で増殖期内膜を認める。血液生化学所見:CA125 38U/mL(基準35以下)、CA19-9 15U/mL(基準37以下)、エストラジオール〈E2〉310pg/mL(基準20以下)。開腹手術を施行した。左付属器の手術摘出標本のH-E染色像を別に示す。この患者の診断はどれか。

a 漿液性癌

b 明細胞癌

c 成熟奇形腫

d 粘液性腺癌

e 顆粒膜細胞腫

主訴とキーワード

主訴:閉経後の性器出血

キーワード:61歳の女性、閉経51歳、6か月前から少量の性器出血が続いている、左付属器領域に径10cmの腫瘤、子宮内膜の肥厚(12mm)、子宮内膜組織診で増殖期内膜を認める、エストラジオール〈E2〉310pg/mL

はじめに

特徴のある組織像なため、病理専門医試験でもよく出題されています(2022-Ⅱa-11, 2015-Ⅰ-15, 2013-Ⅰ-10と10年で3回)。また、この顆粒膜細胞腫は純粋型性索腫瘍に分類される悪性腫瘍です。閉経前後に好発します。エストロゲン産生を伴うため子宮内膜増殖症や類内膜癌を併発することがあります。閉経後の性器出血で卵巣腫瘍があった場合は、この顆粒膜細胞腫を鑑別に上げましょう。そして、顆粒膜細胞腫と診断した際には、子宮内膜肥厚はありませんか、と聞きましょう(これを知らない婦人科医はいないと思いますが)。

問題文には、顆粒膜細胞腫を考えるのに十分なキーワード(閉経後の性器出血、卵巣腫瘍、子宮内膜肥厚、エストロゲン高値)がありますね。組織像も非常に特徴的ですので、これを機会にぜひ学んでいただきたいと思います。

なお、この問題は診断を問う形式の問題で、今後はこのような問題は減少していくことが予想されます。診断をつけた上で、今後の検査はなにか、などが問われるようになると思います。例えば、今回でしたら、顆粒膜細胞腫と診断した上で、内膜肥厚があるので子宮内膜癌(子宮体癌)の合併に注意するとか、子宮内膜組織診を行うとかが鍵になると思います。組織診で類内膜癌と診断されたら、卵巣腫瘍だけでなく子宮も摘出する必要があります。

成人型顆粒膜細胞腫の組織像

顆粒膜細胞腫には成人型と若年型がありますが、国家試験で出題されるのは成人型です。卵巣腫瘍の1%の頻度で成人型顆粒膜細胞腫が、顆粒膜細胞腫のうち5%が若年型です。割面は黄色調の充実性腫瘤で、血液を容れた嚢胞変性を伴うことがあります。

成人型顆粒膜細胞腫

組織像は多彩です。弱拡大での観察です。索状配列と記載されていると思いますが、さざ波様(じっと見ていると動き始めるだまし絵のような)にも見えます。

成人型顆粒膜細胞腫
成人型顆粒膜細胞腫

別の視野では、管状ないしロゼット状の配列も見られます。

成人型顆粒膜細胞腫
成人型顆粒膜細胞腫の核溝

バーチャルスライドなので見にくいかもしれませんが、核溝もあります。見つけられるでしょうか。

成人型顆粒膜細胞腫の核溝

診断に必須ではありませんが、Call-Exner bodyという濾胞様構造(好酸性物質を囲むロゼット)もこの病変に特徴的です。問題の画像左がそれです。

成人型顆粒膜細胞腫のCall-Exner bodyと核溝

以上、成人型顆粒膜細胞腫の組織像です。この病名をつけたら、子宮体部内膜を必ず確認しましょう。子宮体部内膜のごく表層に、類内膜癌(G1)がありました。

成人型顆粒膜細胞腫に合併した類内膜癌(G1)

成人型顆粒膜細胞腫による機能性間質(エストロゲン産生)のため、類内膜癌を併発していた症例です。類内膜癌は、好酸性の細胞質に類円形から長楕円形の細長い核を有する細胞が、癒合腺管状ないし篩状(レンコン状)構造をなして浸潤性に増殖します。状況によっては、子宮体部内膜の細胞診や生検による組織像で類内膜癌を先に見る機会もあるかもしれません。閉経後に類内膜癌(や増殖期内膜)をみたときには、そのような状況(ホルモンの補充や、今回のようにホルモンを産生しうる腫瘍)がないかをこちらから注意喚起をする必要があります。

成人型顆粒膜細胞腫に合併した類内膜癌(G1)

本題からは逸れますが、類内膜癌によく似た組織像を示すのが、大腸癌です。これが国家試験で問われることはないと思いますが、実務では、大腸癌の既往がないのかを確認するのはもちろんのこと、癌が漿膜側(外)から浸潤していないか(内膜症を背景にする類内膜癌は漿膜側に局在することもありますが)など、病変の局在に注意する必要があります。

Take home message

成人型顆粒膜細胞腫は、閉経後の不正性器出血をきたす疾患の一つである

成人型顆粒膜細胞腫は、肉眼的に黄色調の充実性腫瘤で多彩な組織像(索状、管状、ロゼット状)を示す。核溝もみられる

エストロゲン産生能を有するため、子宮体癌(特に類内膜癌)の併発に注意する(体癌が先に見つかることもあるので注意する)