117A58 Barrett食道腺癌

問題文と選択肢

72歳の男性。胸やけを主訴に来院した。60歳時から食後の胸やけを自覚していたが、食事を減らすと軽決するため様子をみていた。2週間前から症状が続くようになったため受診した。喫煙歴と飲酒歴はない。意識は清明。身長170cm、体重78kg。BMI 27.0。体温36.6℃。脈拍80/分、整。血圧128/84mmHg。呼吸数15/分。SpO2 96%(room air)。眼瞼結膜に貧血を認めない。眼球結膜に黄染を認めない。尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)。血液所見:赤血球480万、Hb 13.9g/dL、Ht 46%、白血球5,200、血小板25万。血液生化学所見:総蛋白6.6g/dL、アルブミン3.9g/dL、総ビリルビン0.9mg/dL、AST 20U/L、ALT 28U/L、LD 170U/L(基準120~245)、ALP 110U/L(基準38~113)、γ-GT 45U/L(基準8~50)、アミラーゼ90U/L(基準37~160)、尿素窒素12mg/dL、クレアチニン0.8mg/dL、血糖98mg/dL。CRP 0.5mg/dL。上部消化管内視鏡検査の下部食道像(A、B)を別に示す。内視鏡下生検の病理検査で腺癌と診断された。

この患者の病態で考えられるのはどれか。3つ選べ。

a 食道に胃から連続した円柱上皮がみられる。

b 下部食道括約筋が弛緩しにくい。

c 胃酸が食道へ逆流しやすい。

d 遺伝性疾患と考えられる。

e 肥満が関与している。

残念ですが?画像を見なくても正答がわかる問題ですね。肥満気味の胸やけを主訴とする患者に、下部食道から腺癌がみつかりました。GERDを背景とするBarrett食道腺癌と考えて良いと思います。病理画像はありませんが、Barrett食道の内視鏡像は特徴的ですので取り上げたいと思います。Barrett食道(腺癌ではない)の病理診断は、生検では困難なことが多いです(むしろ不可能)。Barrett食道は、イギリスの食道外科医N. R. Barretが1950年に報告したことに由来します。

主訴とキーワード

主訴とキーワードを確認していきましょう。

主訴:10年以上続く、食後の胸やけ

キーワード:食後の胸やけ、食事を減らすと軽決する、BMI 27.0、腺癌と診断された

画像の確認

続いて画像を見ていきます。

一枚目の画像で見ていきましょう。画像の「奥」が胃側で、画像の「手前」が口側です。ピンク色の上皮が食道側(口側)にせり出してきているのが見えると思います。また、ピンクの上皮の中に取り残された、白い上皮が島上にぽつりぽつりと見えます。バレット食道は定義がありますが、試験を解く上ではこのぐらいの理解で十分でしょう。

Barret食道の定義

参考に、Barrett食道の病理的な定義について確認しておきます。EGJより口側に進展する円柱上皮をBarrett食道とみます。正直、これではなんのことだかって感じですね。内視鏡的には柵状血管でEGJを同定するようですが、病理では検体を口・肛門で結んだ線で切り出すため、それを確認することが困難です(内視鏡医と病理医とで「食道をみる向き」が90度違う)。

Barrett食道の形態的特徴は

肉眼的には、嚢状に拡張する胃と管状の食道の境がEGJですが、内視鏡切除検体ではこの定義を当てはめることができません。組織学的には、1. 重層扁平上皮島、2. 食道線や導管開口部、3. 二重化した粘膜筋板からEGJを推定し、そこから進展する円柱上皮をマッピングしてBarrett食道の範囲を推定します。

ですので、病理に提出された検体のみでBarrett食道かどうかを診断するのではなく、内視鏡像との総合判断が求められます。つまり、生検検体では内視鏡診断が優先されると思います(生検検体で上記の1-3の要素を確認することは困難ないしほとんど不可です)。また、切除検体を詳細に切り出しマッピングすることで、対比をすることが可能になると思います。施設の事情や方針にも(大いに)よりますが、Barret食道腺癌(が考えられる症例)では、進行癌でも安易に十字切りしない方が良いかもしれません。

解答(あっさりめ)

解答はあっさりいきます。a, c, eです。アカラシアとは違って下部食道括約筋が弛緩してしまうので逆流が生じてしまいます。bは逆です。問題文の通り、eについては遺伝的要素よりも肥満などの後天的な要素が強いと思います。

Take home message

問題を解くために必須とは言えませんが、病理医と内視鏡医とで食道をみる向きが違うというのは小ネタ的に覚えておいても良いかもしれません。Take home message感がなくて申し訳ないです。