問題文と選択肢
40歳の男性。胸やけを主訴に来院した。2か月前から食事中のつかえ感を自覚し、2週間前から胸やけを伴うようになり受診した。16歳からアトピー性皮膚炎で加療中である。喫煙歴はない。飲酒はビール350mL/日を20年間。家族歴に特記すべきことはない。意識は清明。身長172cm、体重60kg。体温36.2℃。脈拍76/分、整。血圧126/78mmHg。呼吸数14/分。SpO2 99%(room air)。顔面、頸部、体幹および四肢に対称的に紅斑、丘疹および痂皮を認める。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。甲状腺腫と頸部リンパ節とを触知しない。腹部は平坦、軟で、圧痛を認めない。血液所見:赤血球458万、Hb 13.7g/dL、Ht 41%、白血球7,300(桿状核好中球20%、分葉核好中球30%、好酸球8%、好塩基球1%、単球6%、リンパ球35%)、血小板24万。血液生化学所見:総蛋白7.9g/dL、アルブミン4.2g/dL、総ビリルビン0.9mg/dL、AST 24U/L、ALT 18U/L、LD 178U/L(基準120~245)、ALP 86U/L(基準38~113)、γ-GT 38U/L(基準8~50)、アミラーゼ85U/L(基準37~160)、尿素窒素20mg/dL、クレアチニン0.8mg/dL、血糖92mg/dL。CRP 0.1mg/dL。プロトンポンプ阻害薬を処方されたが、症状は改善しなかった。上部消化管内視鏡検査の食道像(A)と生検組織のH-E染色標本(B)とを別に示す。
この患者で考えられる疾患はどれか。
a 食道癌
b 逆流性食道炎
c 好酸球性食道炎
d 食道アカラシア
e 食道カンジダ症
病理画像一発問題ですね。好酸球が多く浸潤していることが分かれば、正答にたどり着けると思います。癌かどうかの判断(核の異型があるか、構造がおかしいか)などよりも組織像の解釈は容易なのではないでしょうか。国家試験本番では、問題をさっと解いて次の問題に考える時間を確保するのが良いと思います。いまは国家試験中ではないので、よく練られた問題文を確認して、味わっていきましょう。
主訴とキーワード
40歳男性の胸やけ、食事中のつかえ感、アトピー性皮膚炎の既往歴、食道癌のリスクとなるような、喫煙や多量の飲酒がない、好酸球数増多(好酸球数=580個/uL)、プロトンポンプ阻害薬で改善がない
組織像一発問題ですが
組織像一発と記載しましたが、上記のキーワードをさらうことで、内視鏡および病理の画像を見なくても正答は可能でしょう。好酸球性食道炎は113A44, 115A50に選択肢として出題されていますが、正答として出題されるのは初です。初めてですので、臨床経過あるいは画像のどれかがわかれば診断することのできる平易な問題でした。しかしながら、今後は診断名を問う問題から、疾患絞り込みのプロセスへと移行するなど、アプローチを変え出題されることが予想できます。胸やけを主訴とするひとに聴取するべき事柄として誤りはどれか、疾患の絞り込みのために有用な検査はどれか、診断を確定するために次に行うのはどれか、など。
実際のところは、病理組織のみで好酸球性食道炎と診断することはできず、臨床所見が重要です(好酸球性食道炎のみならず、多くの疾患が特定の検査のみで診断することはできません。どの領域にも、得意不得意は存在します。内視鏡所見のみで好酸球性食道炎と診断することはできず、組織所見が重要ですと言い換えることもできます。くどいですね)。つまり、同様の組織像を呈しうる疾患の例として、好酸球性胃腸炎の食道病変や、薬物性(アレルギーなど)、好酸球性の血管炎が食道に生じた、骨髄増殖性疾患、感染症(寄生虫など)など多岐にわたる疾患があがりますが、組織像のみでこれらを鑑別することは困難でしょう。ですが、内視鏡をする前に、内服薬や既往歴、寄生虫のリスクがありそうなひとなのか、などは問診でも十分確認することができます。
画像の確認
組織像を見ていきます。白丸囲みが好酸球です。数えるだけでも10個以上あります。通常、食道に好酸球浸潤はありませんので、好酸球が1個でもあるだけで異常です(1個あるからEoEの診断にはなりませんが)。また、黒矢印にも三角の形をした、赤い領域があります。これも変形していますが好酸球です。核が確認できなくても、赤いところは好酸球の一部を見ていると考えます。
好酸球性消化管疾患
好酸球性食道炎(EoE)および好酸球性胃腸炎(EGE)の総称です。いずれも診断基準についてはweb上で診療ガイドライン(2020年版)が確認できます。
好酸球性食道炎について、必須項目が、
- 食道機能障害に起因する症状(嚥下障害やつかえ感など)が存在することと、
- 上皮内に好酸球数15個以上/HPF(high power field、ざっくり言うと対物40倍でみたとき)です。生検箇所は複数が望ましい。※厚労省の資料(アップデート案)では視野数22と記載がありました。
ほか、参考項目は、
- 内視鏡検査で食道に白斑、縦走溝、気管様狭窄を認める。
- PPIに対する反応が不良である。
- CTや超音波内視鏡で食道癖の肥厚を認める。
- 末梢血中に好酸球増多を認める。
- 男性
があります。診断の確定には病理組織診断が必要であることがわかります。今回の問題では、内視鏡検査で食道の縦走溝、輪状の溝(気管様食道、輪状多発収縮輪などと表現されるようです)、内視鏡医ではないので言及は控えますが画像下や右下に白い斑状の領域もあると思います。加えて2. PPIや4. 好酸球増多、5. 男性の参考項目を満たしています。
好酸球性胃腸炎では、1. 症状があり、2. 胃から大腸で「20個/HPF以上」の好酸球浸潤がみられると好酸球数の要件が異なっています。また、3. あるいは腹水が存在し腹水中に多数の好酸球が存在することと、この場合は消化管の生検は必須ではありません。腹水細胞診ができればよいわけですね(ここまでを国家試験では問われないと思います。消化管専門医や病理専門医を目指す専攻医はへーと思えばいいと思います。わたしは項目3を知りませんでした)。また、好酸球性食道炎は男性に多いですが好酸球性胃腸炎は性差は参考項目にありません。ほかに注意すべき事項としては、小腸や盲腸には意外と好酸球がいます。特に所見はないが生検された検体について、拡大あげて数えてみると20個は簡単に超えると思います。臨床が疑っていない場合に(症状がない場合に)、やたらめったら好酸球をカウントするのは控えた方がいいかもしれません。
さて、117回で初めて正答として出題された好酸球性食道炎の問題を扱いました。今後は疾患名だけでなく、診断あるいは鑑別のプロセスが問われる可能性があります。余裕があれば、鑑別すべき疾患をあげ、鑑別のために聴取するべき情報や診断の基準を確認していきましょう。
Take home messages
食道に好酸球浸潤は通常見られない
つまり胸やけを主訴とする患者の食道に好酸球主体の炎症がみられたら好酸球性食道炎を考慮する(病理診断報告書に浸潤する好酸球数を記載するのが望ましい)
好酸球性消化管疾患(含む食道炎、胃腸炎)は指定難病である
補足
※難病申請にかかる臨床調査個人票(-乳児ver、-成人ver)には腹水中の好酸球比率(数ではない)や生検検体中の好酸球数/HPFを記載する箇所があります。
※同じく指定難病の好酸球性副鼻腔炎は、3視野測定しさらにその平均値を記載する必要がありますが、消化管では1視野のみで良さそうです。わたしは多いところの好酸球数を3箇所書いていますが、平均は記載していません。クレームいただいたことはないですが、サービスは悪いかもしれませんね。