117D44 尿膜管癌の診断について

問題文と選択肢

33歳の女性。2か月前からの頻尿を主訴に来院した。尿を長時間我慢できず、すぐトイレにいきたくなるようになり、トイレの回数が増えた。既往歴に特記すべきことはない。身長162cm、体重56kg。脈拍64/分、整。血圧132/90mmHg。下腹部に腫瘤を触知する。内診で子宮は正常大、両側付属器に異常を認めない。尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)。血液所見:赤血球480万、Hb 13.9g/dL、Ht 41%、白血球4,400、血小板24万。血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL、アルブミン4.2g/dL、総ビリルビン0.5mg/dL、AST 14U/L、ALT 13U/L、LD 138U/L(基準120~245)、ALP 70U/L(基準38~113)、γ-GT 12U/L(基準8~50)、尿素窒素14mg/dL、クレアチニン0.6mg/dL、血糖88mg/dL、Na 140mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 106mEq/L。腹部超音波検査で膀胱頂部に腫瘍を認めた。膀胱鏡像(A)、腹部MRI T2強調矢状断像(B)及び水平断像(C)を別に示す。入院後、開腹腫瘍摘出術および膀胱部分切除術を施行したところ、病理診断の結果は腺癌であった。

腫瘍の発生母地として正しいのはどれか。

a 大網

b 小腸

c 尿管

d 尿膜管

e 腹直筋

主訴とキーワード

33歳女性、2ヶ月前からの頻尿、下腹部に腫瘤を触知、内診で子宮は正常大、両側付属器に異常を認めない、腹部超音波検査で膀胱頂部に腫瘍を認めた、病理診断の結果は腺癌であった。

画像の確認

膀胱頂部の腺癌です。膀胱鏡では、通常の尿路上皮癌を考えるような乳頭状腫瘍は確認できません。非腫瘍部の膀胱粘膜を写真から観察するのは難しいですが、腫瘍表面を被覆する粘膜は「つるっ」としていて光沢もあります。膀胱の外から膀胱を圧排するようにみえます。少なくとも、膀胱癌として典型的とは言えないでしょう。CTでは、矢状断だと膀胱の頭側に病変があるようです。水平断では、臍の直下に病変があるように見えます。

尿膜管遺残と尿膜管癌

臍と膀胱頂部のあいだには、尿膜管という構造(の遺残)があります。同部に生じた上皮性悪性腫瘍を尿膜管癌といいます。画像のように大きくなると、症状が出てきます。組織型としては腺癌が多いですが、尿路上皮癌も生じます。

尿膜管癌は膀胱癌の1%未満の発生頻度であり稀な病変です。尿膜管癌と診断するには、形態よりも病変の局在や広がりに重点が置かれています(腺癌が生じたからと行って尿膜管癌と断定できないし、尿膜管癌にも通常の尿路上皮癌が発生しうる)。また、腫瘍の進行期も膀胱癌とは異なる分類(Sheldon分類が有名)を使われることが通常です。最後にSheldon分類を提示しておきますが、発見時はすでにⅢ以降の進行期であることが多いようです。

尿膜管癌の診断基準

1. 膀胱頂部に腫瘍がある

2. 筋層から膀胱外への進展が優勢である

3. 腺性膀胱炎が近傍にない

4. ほかに腺癌がない(転移性ではない)

すべてを満たすのは実臨床では難しいと思います。今回の問題のように、病変の局在から尿膜管癌を考慮するのが実際の診療では通常と思います。

尿膜管癌の病期について

Sheldon分類

Ⅰ期:尿膜管粘膜を超えない

Ⅱ期:尿膜管粘膜を超える浸潤

Ⅲ期:隣接臓器への直接浸潤(ⅢA:膀胱、B:腹壁、C:腹膜、D:膀胱以外の臓器)

Ⅳ期:転移あり(ⅣA:リンパ節、B:遠隔転移)

Take home messages

膀胱頂部、臍の深部に生じた腺癌は尿膜管癌である(かなり乱暴かつ断定的な言い方ですが)