117F31 術中迅速診断の適応とその目的について

問題文と選択肢

手術中に行う迅速病理診断で正しいのはどれか。2つ選べ。

a 予定手術全例に対して行われる。

b 目的として切除範囲の決定がある。

c 検体をホルマリンに浸漬して提出する。

d 凍結してから切片を作成する。

e 免疫染色を行う。

術中迅速診断の適応について

術中迅速診断について整理しておきましょう。病理専門医試験でも出題されています(2022年Ⅰ型-50)。また、頻繁には出題されていませんが10年前の医師国家試験(107F10)でも出題されています。

術中迅速診断の適応は大きく2つ、1. 治療方針(術式)の決定、2. 病理診断を目的とした、からだの奥深くの組織の採取です。基本的には悪性もしくは悪性を疑う疾患について術中迅速診断が行われます(だからaは誤り)。

適応その1 治療方針の決定

1. について、代表は乳腺の部分切除術とセンチネルリンパ節生検でしょう。リンパ節と乳腺の切除断端が術中迅速診断の検体として提出されます。センチネルリンパ節に (2 mmを超える範囲の) がんの転移があれば、腋窩リンパ節郭清を行います。転移がなければ郭清は行いません。つまりセンチネルリンパ節の術中迅速診断次第で、術式が変化します。乳腺の切除断端に癌がなければ手術は終了です。癌があれば(乳管内癌か浸潤癌か、またその範囲でも変わりますが)追加切除を行ったり、あるいは全摘(術式の変更)も考慮したりしなければなりません。よってbは正答です。ほかには、「癌の手術をしようと腹を開けたら(腹腔鏡を挿入したら)播種を考える腫瘤が多数あったので迅速診断に提出したら癌と診断された」というシーンもあります。(癌によって播種があったときの病期は異なりますが)播種があれば基本的にはstage Ⅳとなり病変を切除することは困難です。よってこの場合、播種があったので手術を中止します(これも術式の変更)

適応その2 病理診断を目的とした、からだの奥深くの組織の採取

2. について、体の深いところにある領域の組織は、採取しにくいことが多く診断困難になることもままあります(特に頭頚部領域)。そのため、全身麻酔下で組織を採取して良性・悪性の診断をつける場合もあります。幸いなことに、頭頚部領域の場合は角化型の扁平上皮癌であることが多く、その場合は術中迅速診断も容易です。後に示しますが、術中迅速診断で作製する標本は、早くできますが(検体数にもよりますが、早いと20分くらいで報告できると思います)通常の標本よりも制約が多く質がどうしても落ちます。ですから正診率が低下してしまいます。

術中迅速診断はプレッシャーが大きい

このように、術中迅速診断は診断次第で治療方針が大きく変わることがあるストレスフルな行為です。ホルマリン固定してパラフィンブロックを作る通常の標本作成過程と、術中迅速診断の標本は作成過程が大きく異なります。整理して確認していきましょう。

検体提出方法

通常:たっぷりの10%中性緩衝ホルマリンに入れて提出する

術中迅速診断:生理食塩水で濡らしたガーゼを固く絞り、それで包んで提出(乾燥を防ぐ、液体に浸漬しない)。ですからcは誤りです。

薄切まで

通常:エタノール、キシレンにいれ脱水と透徹を行う(パラフィン(蝋燭)に馴染むようにする)→パラフィンで固めて薄く切る

術中迅速診断:OCTコンパウンドという専用の液体に入れドライアイスアセトンやドライアイスイソペンタンなどで凍結し、薄く切る→固定する(dは正答です)

いざ染色

通常、術中迅速診断ともにHE染色は可。術中迅速診断の標本は基本的にはHE染色で行います(eは誤り)

術中迅速診断中に免疫染色をするほどの時間はない(例外あり、時間をかけてでも免疫染色で得られる情報が有用なシーンが有る(後述))常に免疫染色をするわけではないので、eは誤りです。

補足1 迅速診断が早いんだから全部迅速でやってほしいな!は妥当か?

1. 術中迅速診断の標本は通常よりも厚い

技師の腕の見せどころですが、通常の標本よりも質はどうしても低下してしまいます(正診率が下がる)。術中迅速診断で使用した検体をホルマリン固定して、通常の標本も作り、迅速診断が妥当であったかの確認を全例で行いフィードバックをしています。

2. 骨や脂肪組織の術中迅速診断は難しい

硬い組織(骨)や脂肪などの凍らない(凍りにくい)組織は迅速診断が困難です。骨は不可、脂肪組織は難しいですがやっています(萎縮した乳腺の断端は脂質が主体です)。通常の標本作製では、脱灰や脱脂をすることで柔らかく、あるいはパラフィンになじみやすくすることができます。

3. 免疫染色ができない(例外あり、後述)

形態のみの観察では良性悪性の診断が難しかったり、組織型(癌(上皮性)かリンパ腫かなど)の判断が困難な場合がある。

補足2 迅速診断で免疫染色を行う施設もある(国家試験の範囲を逸脱しています)

迅速診断で免疫染色を行っている施設もあります。R-IHC研究会(迅速免疫染色研究会)という研究会があります。迅速診断中に悪性であることがわかっても、組織型がわからなければ手術方針が決まらない、あるいは組織型が分かれば侵襲が最小限で済むといった場合があります。たとえば脳腫瘍を上げましょう。ひとくちに脳(にできた)腫瘍と言っても、癌の転移や悪性リンパ腫、原発性脳腫瘍(gliomaなど)では治療が大きく異なります。しかし前述のように形態から上記のどれかを断定するのが困難な場合がどうしてもあります(そもそも上記3つのどれでもないかもしれない)。通常であれば免疫染色を行い上皮性腫瘍か、リンパ腫かなどを鑑別していくことができますが、それには日数がかかります。時間の制約に挑戦したのが迅速免疫染色です。PDFファイルにあるように、悪性の細胞がCKに染まれば癌(上皮性悪性腫瘍)といえますし、さらにTTF-1に染まれば肺腺癌と言えるでしょう。グリオーマやリンパ腫であれば、それぞれGFAP, CD20 (脳原発の場合はB細胞リンパ腫が圧倒的に多い) が染まります。プロトコールに載っている時間を合計すると、順調に行けば30分(~1時間)ほどで結果が出るでしょう。

注意!免疫染色は万能ではない(国家試験の範囲を逸脱しています)

たとえば、TTF-1に染まる卵巣癌があります。そして、肺腺癌の100%がTTF-1に染まるわけではありません。つまり、「肺にできた腫瘍でTTF-1陽性なら絶対原発性肺腺癌です」とか、「肺に生じた腺癌ですがTTF-1陰性だから絶対転移性です」は嘘です。なにかしらの(悪性)腫瘍の既往があるときは注意です、その場合は原発/転移の断定が迅速診断時にできないかもしれません。ほか、GFAPが染まらないグリオーマや、CD20が陰性のB細胞リンパ腫も少なからず存在します。そうは言っても迅速免疫染色が非常に便利なツールであることは違いありません。上手なお付き合いが求められていると思います。

107F10も見ていきましょう

ついでですから107F10も確認していきましょう。これで術中迅速診断マスターです。

凍結切片による迅速診断時の組織の取扱いで適切なのはどれか。

a アルコール固定液につける。

b ホルマリン固定液につける。

c ドライヤーでよく乾燥させる。

d 生理食塩液で湿らせたガーゼで包む。

e グルタールアルデヒド固定液につける。

a. アルコール固定は細胞診のパパニコロウ染色用の固定です。95%エタノールで固定します。

b. ホルマリン固定は通常の標本作製で行います。現在は、組織の10倍以上の量の10%中性緩衝ホルマリンが推奨されています。

c. 風乾固定は細胞診のギムザ染色用の固定です。冷風で行います。熱風はダメです。

d. これが正解です。生理食塩水で湿らせたガーゼで包んで検体提出します。ガーゼはびしょびしょにしないでください。乾燥を防ぐ目的です

e. 主として電子顕微鏡用の標本作製の際に使用する固定液です。施設のルールや観察する構造にもよりますが、2%パラホルムアルデヒド+2.5%グルタールアルデヒド/0.1M リン酸緩衝液 (pH 7.4) で前固定、1%四酸化オスミウム/0.1Mリン酸緩衝液 (pH 7.4) で後固定をします。端折りますが、エポキシ樹脂で硬化し、ダイヤモンドナイフで超薄切します。

Take home messages

迅速診断の適応は、治療方針(術式)の決定や、病理診断を目的とした深部組織の採取に大別される

迅速診断用の検体は、乾燥を防ぐ目的で、生理食塩水で湿らせたガーゼで包んで提出する

硬い骨や脂肪組織主体の術中迅速診断は難しい