117D75 胸膜肥厚がみられたときの対応、悪性中皮腫と診断するには

問題文と選択肢

65歳の男性。胸部痛を主訴に来院した。4か月前から持続性の右胸部痛が出現し、徐々に増強したため受診した。40年前から建設業に従事していた。体温36.3℃。脈拍72/分、整。血圧128/72mmHg。呼吸数18/分。SpO2 98%(room air)。右胸部の呼吸音は減弱し、打診で濁音を認める。血液検査所見で炎症所見は認めないが、胸水中のヒアルロン酸は125,000ng/mLと著明な増加を認めた。胸部エックス線写真(A)と胸部造影CT(B)を別に示す。

確定診断のために必要な検査はどれか。

a 胸膜生検

b 胸部MRI

c FDG-PET

d 気管支鏡下肺生検

e 腫瘍マーカー測定

主訴とキーワード

主訴:胸部痛

キーワード:4か月前から持続性の右胸部痛が出現、徐々に増悪、40年前から建設業に従事、胸水中のヒアルロン酸は125,000ng/mL

徐々に増悪する、建設業、ヒアルロン酸高値から、胸膜の悪性中皮腫だろうと予想がつくと思います。

画像の確認

その目で画像を見ていくと、レントゲンでは、胸水があったことからCPA鈍が確認できますし、肺野全体の透過性が低下しています。

続いて、CTは縦隔条件が提示されています(肺、空気が黒く見える)。肺野条件ではないので、ここからもみるべきは肺ではない、肺の病気ではないことを察するとよいですね。肺全周を囲うような、あるいは壁側胸膜を縁取るような、厚さ1 cmくらいはあろうかという病変が確認できます。腫瘤のため、空気を含む黒い領域は狭くなっています。肺を囲う病変と、問題文からやはり悪性中皮腫と考えて間違いないでしょう。

悪性中皮腫と診断できる次の一手はなにか

それでは、今までの情報に加えて、悪性中皮腫と診断する確度が高い選択肢を選べばよいわけです。MRIやPETなどの画像検査は不要でしょう。やはり組織を採取して病理診断にすすむのがよいのですが、肺生検は誤りです。中皮腫は肺の病気ではないので肺生検では組織を取れません(肺浸潤や転移があれば別ですが)。加えて胸膜は肺を囲うように存在しているので、気管支鏡では最も遠い位置にあります。組織をつまむ鉗子やこすり取ってくるブラシはまず届かないでしょう。逆に、気管からではなく胸壁からアプローチするのが近いでしょう。胸腔鏡下で胸膜生検をしても良いですし、胸膜肥厚があるので肺損傷の可能性が低いなら、経胸壁で針生検をするのもありだと思います(採取量が少ない場合は診断困難になる可能性はあります)。

胸水の検索で診断できる場合もある

番外ですが、中皮腫のうち、上皮型であれば胸水に出現してくる場合もあります。全身状態が悪いなどで胸膜生検が困難な場合は、異型細胞が出現している胸水から組織標本を擬似的に作成して(液体を固めたり、細胞浮遊液を遠心して細胞の塊をつくったりするセルブロック法)、各種免疫染色による検討を加えることで中皮腫の診断ができる場合があります。病理専門医向けですが、悪性中皮腫の場合は、セルブロック作製で病理の加算がとれます(病理専門医試験2022年Ⅰ型-34, 診療報酬について)。中皮腫の診断には免疫染色がほぼ必須と思いますが、4種加算もとれます。

中皮腫の腫瘍マーカー

腫瘍マーカーについて、胸水中のヒアルロン酸は中皮腫の腫瘍マーカーです。ほか、メソテリンも同様です(中皮腫はmesothelioma, メソテリオーマ)。これらが高値を示し、たとえば癌で上がるCEAなどが低ければ、癌性胸膜炎よりも悪性中皮腫を考えるのだと思います。画像や臨床歴、これらの検査を行うことでかなりの確度で診断にたどり着けると思いますが、問題にある診断の「確定」とは言えないでしょう。

中皮腫を正しく診断することは、とても重要なこと

補)アスベスト関連の疾患(アスベスト疾患研究・研修センターに詳細あり。労災や石綿健康被害救済法があるため、これらを正しく診断することは社会的に意義がある)

1. 肺癌(たとえば喫煙者の場合、アスベスト小体がなければアスベストによって発症したと断じることが難しい)

2. 悪性中皮腫(基本的にアスベスト暴露でしか生じない腫瘍のため、アスベスト小体の証明は基本的に不要)

3. アスベスト肺(アスベスト小体の証明が必要)

4. アスベスト胸水(アスベスト以外に胸水貯留を来す原因がないとする診断が難しい)

5. びまん性胸膜肥厚(胸膜肥厚を来す他の疾患を除外する必要がある、これも診断は簡単ではない)

病理が関わるのは1, 2と思います。肺癌はアスベスト関連というためにはアスベスト小体を検索する必要があります。

Take home messages

胸腔(胸膜や胸郭を含む)に病変を見たときは、職業歴(アスベスト曝露歴)を必ず確認する(進行した中皮腫は肺に腫瘤を形成しているように見えることもあります)

悪性中皮腫では胸水中ヒアルロン酸が高値を示す(中皮腫の腫瘍マーカー)

悪性中皮腫の診断のためには、胸水からセルブロック標本を作成したり胸膜生検を行ったりする