体位で変動する息切れを伴う心臓腫瘍の診断について

問題文と選択肢

症例は65歳女性。労作時の頻繁な息切れを主訴に近医を受診した。横になると症状が軽快するが、立ち上がると症状が出現する。既往歴はなく、内服歴もない。体温37.2℃。心音に異常なし。心臓超音波検査で、左心房内に可動性のある腫瘤を認めた。左右シャントはない。頭部MRI検査で、陳旧性脳梗塞を複数認めた。麻痺やしびれなどの自覚的、他覚的症状はない。心臓腫瘍の診断で緊急手術が行われた。摘出検体のHE染色標本を示す。

組織像

組織像(1枚目:検体のマクロ像、2-4枚目:病変部拡大)

心臓粘液腫の組織像
心臓粘液腫の組織像
心臓粘液腫の組織像
心臓粘液腫の組織像

設問と選択肢

1. 診断はどれか。

 a. 脂肪腫

 b. 心臓粘液腫

 c. 乳頭状線維弾性腫

 d. 血管肉腫

 e. 転移性腫瘍

2. 好発部位はどこか。

 a. 右心房

 b. 左心房

 c. 右心室

 d. 左心室

3. 本症例において問2の部位に問1の病変が発生した場合、注意すべき合併症はどれか。すべて選べ。

 a. 喀血

 b. 脳梗塞

 c. 失神

 d. 突然死

4. 手術により病変が完全に切除できた場合、術後の方針はどれか。

 a. 運動制限が必要である。

 b. 水分、塩分制限が必要である。

 c. 化学放射線療法を行う。

 d. 待機的に心臓移植を行う。

 e. 無治療経過観察で良い。

回答

1. b 心臓粘液腫

2. b 左心房

3. b, c, d 脳梗塞、失神、突然死(喀血以外)

4. e 無治療経過観察

解説

可動性のある心臓腫瘍に関する問題である。心臓腫瘍で最も多いのは心臓粘液腫である。それに矛盾しない臨床症状(病変が動くにつれ症状も変動する、微熱がある、脳梗塞を合併している)が確認できる。

よって、1. 診断はb. 心臓粘液腫であり、その2. 好発部位はb. 左心房である。

3. 合併症は、左心房に発生しているのでb. 脳梗塞と僧帽弁を塞ぐことによるc. 失神とd. 突然死である。肺循環に関連する右心房や右心室に発生した場合は、肺病変として喀血が出現する場合もあろう。

4. 心臓粘液腫は良性腫瘍であるため、病変を切除した後の治療は必要なく、生活上の制限もない。よって回答はe. 無治療経過観察で良い、である。なお、稀だが病変の残存がある場合は、再発することもあるようだ。施設によっては、断端の検索のため術中迅速診断の依頼があるかもしれない。

組織像解説

心臓粘液腫の組織像解説

検体のマクロ像(引きの画像)です。心房内腔に付着するような(亜)有茎性の出血を伴う腫瘍が確認できます。腫瘍部を拡大していきましょう。

心臓粘液腫の組織像解説

出血は古いものもあるようです。ヘモジデリン沈着(茶色)がみられます。また、そうでないところでは青色の粘液腫状の間質を認めます。違う視野を見ていきます。

心臓粘液腫の組織像解説

この視野ではヘモジデリン沈着は目立ちません。赤っぽい細胞質を持つ、紡錘形や星型、くの字など様々な形の細胞がいろいろな形(癒合した腺様、索状、あるいは1個1個バラバラに)を作っています。この赤っぽい細胞質を持つ細胞が、粘液腫細胞であり心臓粘液腫を形成しています。

心臓粘液腫の組織像解説

視野を変えると組織像は異なり、単調ではないようです。それでも、構成成分は同じであることがわかると思います。試験(医師国家試験で組織像は出ないと思います。病理専門医試験で出題されると思います)で出題されたときも、構成成分に注目して診断をするようにしましょう。ほか、石灰化や器質化、炎症性細胞浸潤が目立つなどの変化も見られるようです。

定義、概念、頻度、臨床的事項など

心臓粘液腫は原発性心臓腫瘍で最も多い。心臓粘液腫のおよそ3/4が左心房に発生する。女性に多く、成人に発生する。腫瘍の大きさは数cmから5 cmほどのものが多い。症状は、腫瘍が弁にはまり込み血流を遮断すれば失神や突然死などを引き起こす。また腫瘍はもろく剥がれやすい。それが塞栓子となって脳梗塞を引き起こす。肺循環に関連する領域に発生したり、シャントが併存したりしていれば、肺塞栓を生じうる。

治療

心臓粘液腫は良性腫瘍であるが、脳梗塞や失神、突然死の原因となる。そのため発見次第手術が原則である。病変を取りきれば、その後の治療は必要なく、術後の生活に制限もない。

鑑別診断

器質化した血栓と鑑別が難しい場合がある。試験問題を解くうえでは鑑別になるような疾患は無いと思う。

Take home message

心臓粘液腫は良性腫瘍だが、合併症(脳梗塞や失神、突然死)によりQOLを著しく損なう