115A17 子宮頸がん検診で異常を指摘されたあとの流れ

問題文と選択肢

22歳の女性。子宮頸がん検診の細胞診で、軽度異形成〈子宮頸部上皮内腫瘍〉疑いとされ精査目的で来院した。子宮がん検診を受けたのは今回が初めてである。内診および経腟超音波検査で子宮と卵巣に異常を認めない。腟鏡診では、子宮腟部に肉眼で異常を認めない。

この患者でまず行うのはどれか。

a 子宮全摘出

b 抗ウイルス薬投与

c 子宮頸部円錐切除

d 腫瘍マーカー測定

e コルポスコピィ検査

主訴とキーワード

主訴:子宮頸がん検診の細胞診で、軽度異形成〈子宮頸部上皮内腫瘍〉疑いとされ精査目的で来院した

キーワード:子宮頸がん検診の細胞診で、軽度異形成〈子宮頸部上皮内腫瘍〉疑い

はじめに(頸がん検診の運用、ベセスダシステム、HPVワクチン)

117D54を出題するための予告のような問題でしょうか。子宮頚がん検診の運用と、中心的な役割を担う細胞診について問う問題です。細胞診の判定は、ベセスダシステムに準じて行われます。

頸がん検診の対象は、20歳以上の女性、2年毎です。また、子宮頚癌の原因の多くはhigh-risk HPVであります。それを防ぎうるHPVワクチンの対象は、小学校6年~高校1年相当の女子で、定期接種が行われています

問題を解くだけなら

この問題に正答するだけであれば、以下を整理しておけばよいでしょう。

国家試験的には、細胞診の役割はスクリーニングであり、病気の拾い上げに適しています。細胞診は組織診(生検や手術)に比べて侵襲も少なく簡便であり、検診という仕組みにマッチしています。(ほかの臓器に比べれば)子宮頸部は体表から近く細胞の採取が容易です。

細胞診で何らかの疾患が疑われたので、引き続いて診断の確定が可能な生検をするために、コルポスコピィ検査(で狙い組織診)にすすむ選択肢eが正解です。

117D54はこの発展形か

117D54では、組織診断がLSILのときに次どうするかが問われていました。細胞診でLSIL以上の判定が出たらコルポスコピー+生検です。

実際の臨床では、組織診で病変が出ないときや細胞診断との不一致が出たときはどうすればよいのか、という疑問も生じてくるかもしれません。その辺もリンクで触れています。

選択肢にはありませんが、これらも正解です

今回の問題のようにASC-US(意義不明な異型扁平上皮細胞(軽度扁平上皮内病変の疑い))のときは、1. high-risk HPVの検査、2. 細胞診再検査(6, 12ヶ月後)、3. コルポスコピー+生検のいずれかをやります。

選択肢にはありませんが、半年後にまた検査しましょう、とか、high-risk HPV感染があるか検査しましょう(検体は子宮頚部擦過細胞診です。血液ではありません)も正解です。

NILM(陰性(非腫瘍性))のときは、異常がないので(終了、ではなくて)2年後の次回がん検診を受けます。

ほかの選択肢の吟味

a. 子宮全摘術:軽度異形成の疑いで子宮を取られちゃったら大変です。ちなみに妊婦も子宮頸部細胞診を受けます。妊娠中に異常が指摘されたらどうしましょう。考えたくもないですね。誤りです。仮に治療対象となっても、円錐切除やレーザー蒸散、LEEPなど、子宮摘出の前のステップがあります。分かるなら妊娠前に分かった方が良いかもしれませんが、妊娠中でも手立てがあります。

b. 抗ウイルス薬投与:そもそもこの問題についてHPV感染があるかどうかわかりません。それに、仮にHPV感染があったとしても、2023年8月現在HPVを除去できるような抗ウイルス薬はありません(子宮頚癌ではなく尋常性疣贅に対してですが、治験はあるようです)。

c. 子宮頸部円錐切除:組織診でhigh-risk HPV (+)のHSIL/CIN2か、HSIL/CIN3に対して行います。

d. 腫瘍マーカー測定:SILは上皮内にとどまる病変であり、上皮の下へ浸潤すると扁平上皮癌と病名が変わります。扁平上皮癌では腫瘍マーカーのSCCが上昇することがあります。つまり、「SCCが高い→からだのどこかに扁平上皮癌がある可能性が高い」となるわけですが、「SCCが低い→扁平上皮癌がない」とはならないことに注意です。もちろん、SCC低値はSILの否定にもなりません

Take home messages

細胞診でLSIL以上の判定が出たらコルポスコピー+生検

ASC-USではコルポスコピーのほか、1. high-risk HPVの検査、2. 細胞診再検査(6, 12ヶ月後)も可

試験前には、ベセスダシステムの運用や、high-risk HPVの型(16, 18, 31, 33, 35, 45, 52, 58)は覚えておくのが良いのだと思います

ほか、子宮頚癌に対するHPVワクチンのように、ワクチンで防ぐことのできる疾患、vaccine preventable disease (VPD) についても確認しましょう