問題文と選択肢
心アミロイドーシスについて誤っているのはどれか。
a 二次性心筋症である。
b 心電図で低電位差を認める。
c 心筋生検が診断に有用である。
d 左室拡張障害による心不全を生じる。
e 老人性全身性アミロイドーシスでは免疫グロブリンが心臓に沈着する。
はじめに
心アミロイドーシスは、心臓にアミロイド線維が沈着し、形態及び機能に異常をきたしたものをいいます。心アミロイドーシスには主にAL, ATTRアミロイドーシスがあります。一般的には、心肥大や拡張障害を来しますが、症状は多彩で、収縮障害や刺激伝導系の異常、不整脈なども生じます。
主な心アミロイドーシスのtypeであるAL, ATTRには治療手段があるため、多彩な症状から心アミロイドーシスを適切に抽出して分類することが重要であると言われています。
選択肢の吟味
- 二次性は「原因がある」という意味です。アミロイドにより起こる心機能の障害を心アミロイドーシスというので、正しいです。
- アミロイドの沈着があると心臓が肥大します。心臓が肥大しているように見えるにも関わらず低電位を示すのがアミロイドを疑うきっかけになるようです。低電位は有名ですが、高頻度に見られるALアミロイドーシスでも頻度は60%ほどです。ATTRでは最大40%ほどです。
- 心筋生検の感度は100%と言われています。しかしながら侵襲が低い検査とは言えません。ほかの推奨できる生検部位として、腹壁脂肪組織、皮膚、上部消化管(胃と十二指腸)、口唇腺があります。アミロイドのタイプにより検出率にバラツキがありますが、心筋生検ができないときやそれに先だって採取する部位として選択肢に上がります。感度は心筋生検より劣るので、「心筋以外でアミロイドが検出されないからアミロイドーシスではない」ではありません。
- 一般的には拡張障害を来します。正しいです。
- 老人性全身性アミロイドーシスは名称変更がありました。現在は野生型トランスサイレチンアミロイドーシスです。野生型トランスサイレチン(ATTRwt)が沈着します。疾患名に沈着するアミロイドの名称が含まれていますので、今後このような選択肢は作るのが難しくなりますね。変異型トランスサイレチン(ATTRv)が沈着する遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスは、以前は家族性アミロイドポリニューロパチーという名称でした。
核医学検査が心アミロイドーシスの診断に重要である
99mTcピロリン酸シンチグラフィ(骨シンチ)はATTR心アミロイドーシスに対する高い診断能を有しています。
診断ではありませんが、123I-MIBGシンチグラフィは機能の評価(予後の評価)に有用です。
心アミロイドーシスには治療が存在する
長らく対症療法が主体でした。現在もアミロイドの沈着を防ぐ薬やアミロイドを除去する画期的な薬はありませんが、AL, ATTRアミロイドーシスには治療手段があります。
ALではアミロイドのもとになるfree light chain (FLC) を低下させるためのメルファラン、デキサメサゾン併用療法が最も一般的な治療です。
ATTRでは、野生型に関してはTTR四量体安定化薬(タファミジス)によりアミロイド線維形成を抑制する治療があります。変異型は、TTRのほとんどが肝臓で作られることから肝移植が治療法としてあげられます。ほか、野生型と同様にタファミジスも使われます。また、TTRのほとんどが肝臓で作られることと、TTR遺伝子をノックアウトしても明らかな表現型を呈さない(問題が起こらない)ことから、変異型ATTRは遺伝子治療の対象(TTR mRNAを標的とするsiRNA薬、パチラシン)疾患です。
アミロイドの観察方法
アミロイドは、HE染色では好酸性無構造物(赤くべっとりとした構造)として観察できます。膠原線維と紛らわしいときもあります。今まで触れてきたように、特に全身性のアミロイドーシスは進行性の疾患であり、二次性の場合はその原因を特定する必要があります。また、特定のアミロイドのタイプによっては治療が存在するので、我々病理医はアミロイドを正しく抽出する必要があります。
アミロイドを検出する特殊染色に、Congo red, DFS染色があります。ゴールドスタンダードはCongo red染色です。アミロイドが橙色を呈します。橙色を呈したら、偏光顕微鏡で観察します。複屈折を示すアップルグリーンが観察できたら、アミロイドと言えます。
全身性アミロイドーシスのtypingとコンサルテーションシステム
主な全身性アミロイドーシスは、AL, AA, ATTR, Aβ2Mがあります。
ALは免疫グロブリンL鎖のkappaあるいはlambdaによるもので、骨髄腫あるいは原発性です。
AAは続発性です。SAAによるもので、関節リウマチなど炎症を原因とします。
ATTRは野生型と変異型があり、野生型は加齢がリスク(かつて老人性と言われていた)で、変異型は遺伝性です。β2Mはβ2ミクログロブリンによるもので、長期の透析がリスクです。
骨髄腫や関節リウマチ、透析は病理の検索のみならず、臨床情報が重要です。また、アミロイドのtypingには免疫染色が有用ですが、市販の抗体では染色性が必ずしも良好でないものもあり、また染色性の判断に注意が必要な場合もあります。
そのため、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業として、アミロイドーシスに関する調査研究班によるコンサルテーションを受けることができます。料金は標本の輸送量のみです。アミロイドの型によって治療が大きく異なるので、判断に迷った場合はコンサルトするのが良いでしょう。
アミロイドの組織像
検体は心臓(心膜)です。HE染色でピンク色のべったりとした領域が観察できます。
線維化と間違うこともあるかもしれません。Congo red染色を行い検討しました。赤い領域がオレンジ色に染まっています。
偏光顕微鏡で、複屈折を示すアップルグリーンが観察できます。
上で緑色になっている領域が、下の画像では黄色に、上で黄色になっている領域が緑色に変わっています。ちょうど黄色と緑がネガポジの関係です。
これをもってアミロイドの沈着があることが証明されました。臨床情報と照らし合わせて、骨髄腫や関節リウマチ、透析しているかなどをヒントにアミロイドの型判定をすすめていきます。自施設でやっている免疫染色のみでは判断困難な場合は、外部の施設の力をお借りします。
補足 アミロイドの観察に必要な道具(偏光子(ポラライザ)と検光子(アナライザ))
みぎ(厚みがある方)が偏光子、ひだり(うすい方)が検光子です。
これらを顕微鏡にセットします。使用する顕微鏡により細かい仕様は異なる可能性がありますが、光源に近いところに偏光子を、目に近いところに検光子をセットします。
光源近くの偏光子を回して、真っ黒な視野のところで標本を観察したときに、アミロイドが鮮やかな緑色になることを観察します。
ガイドラインがあります
なお、日本循環器学会のページに、各種ガイドラインが掲載されています。2020年版の心アミロイドーシス診療ガイドラインがPDF形式で掲載されています。また、動画の解説もあります。
Take home message
アミロイドの沈着を疑ったときは、Congo red染色を行う
Congo red染色でオレンジ色の領域を見たら、続いて偏光顕微鏡で観察する。複屈折を示すアップルグリーンが観察できたらアミロイドと言える
心アミロイドーシスの病型であるATTRwt, ATTRvには治療薬が存在する