問題文と選択肢
40歳の女性。外陰部の掻痒感を主訴に来院した。1か月前から掻痒を伴う帯下が続いている。痛みはない。身長158cm、体重64kg。体温36.5℃。脈拍72/分、整。血圧124/76mmHg。呼吸数18/分。内診で子宮と両側付属器に異常を認めない。帯下は黄色泡沫状。外陰に発赤を認めない。可能性が高いのはどれか。
a 萎縮性腟炎
b 細菌性腟炎
c カンジダ腟炎
d トリコモナス腟炎
e クラミジア子宮頸管炎
主訴とキーワード
主訴:外陰部の掻痒感
キーワード:掻痒を伴う帯下、痛みはない、帯下は黄色泡沫状、外陰に発赤を認めない
はじめに
症状と帯下の所見から、疾患を想起します。正答率は高く、問題の難易度は高くないでしょう。帯下の肉眼的特徴と疾患を整理しましょう。
帯下の肉眼的特徴から疾患を整理する
細菌性腟炎:灰色調の帯下、無症状なことも多い
カンジダ腟炎:チーズないし粥状の白色帯下、強い掻痒
トリコモナス腟炎:泡沫状の帯下
クラミジア子宮頚管炎:黄白色、膿性の帯下、症状は軽微
ということで、この問題では泡沫状の帯下がみられており、d. トリコモナス腟炎と診断できます。トリコモナス腟炎(膣トリコモナス症)は原虫(原生生物)であるトリコモナスによる性感染症です。治療はメトロニダゾール膣錠です。
トリコモナス腟炎の子宮頚部ブラシ擦過細胞診標本(LBC)をみていきましょう。なお、LBCは観察範囲が決まっており、細胞の重なりも少なく従来法に比べてメリットが多いですが、トリコモナスは従来法のほうが多く見られるようです。
トリコモナス腟炎の細胞像の提示
さて、写真のどこにトリコモナスがいるでしょうか。
見つかりましたか。ぼくが細胞診専門医を受けるため勉強し始めたころは、正直良くわかりませんでした。これ細胞?というような、ライトグリーンにごく淡く染まる構造がそれです。解説画像を提示します。
赤い細胞が子宮頚部の重層扁平上皮を構成する表層細胞です(黒矢印)。ついで、四角囲みが中層細胞です。表層細胞と比べてN/Cが上昇しています。白抜きの黒矢印の、細胞質がライトグリーンに濃く染まりさらにN/Cが大きい細胞が傍基底細胞です。これらはいずれも非腫瘍性です。さて、トリコモナスは黒丸囲みの中にいます。左下の大きな丸囲みにたくさんいます。拡大を上げます。
画像中央に多数のトリコモナスが集まっています。パパニコロウ染色では細胞の境界が不明瞭です。細胞質には好酸性(赤ないし紫色)の点状顆粒を多数有しています。これがトリコモナスです。写真のヘリにある、個々のトリコモナスを四角で囲んでみます。
トリコモナス腟炎では好中球浸潤が見られ、塊状に集簇する場合もあります(次画像)。
画像中央が(扁平上皮にくっついた、といっても好中球がたくさん集まっていて扁平上皮が見えにくいかもしれません。塊の右下に赤い細胞質を持つ表層の細胞がありそうです)好中球の集まりです。拡大を上げます。なお、この好中球の集まりはcannon balls (キャノンボール、大砲の弾の集まり)と形容されることもあります。Cannon balls で画像検索をすると、大砲の弾の集まり、塊がみられます。好中球1個1個を大砲の弾に例えているのでしょう。トリコモナスは西洋梨に形態が例えられています。
なお、トリコモナス腟炎は主訴や帯下の色・臭いで臨床医は気がつくので、我々が診断する頃にはすでに治療が開始されていることと思いますが、形態的な裏付けは重要だと思います。そして、細胞診の専門医試験や、病理専門医試験(こっちにも細胞診問題が10題でます)にもそれなりの頻度で出題されています。
Take home messages
帯下の様子から疾患を想定できるようになろう
炎症性背景(好中球がいる)から何らかの感染性疾患を想定しよう
好酸性顆粒を目印に、トリコモナス原虫を見つけてみよう