問題文と選択肢
56歳の女性。心窩部痛を主訴に来院した。半年前から心窩部に違和感があり、持続するため受診した。既往歴に特記すべきことはない。身長162cm、体重61kg。眼瞼結膜に異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球399万、Hb 11.5g/dL、Ht 35%、白血球4,300、血小板17万。血液生化学所見:総蛋白7.2g/dL、アルブミン4.1g/dL、総ビリルビン0.5mg/dL、AST 20U/L、ALT 16U/L、LD 184U/L(基準120~245)、尿素窒素21mg/dL、クレアチニン0.9mg/dL、血糖93mg/dL。CRP 0.2mg/dL。上部消化管内視鏡像(A)と生検組織像(H-E染色、KIT免疫染色、αSMA〈平滑筋アクチン〉免疫染色)(B)を別に示す。腹部CTで腫瘍径は5.5cm、他臓器への転移を認めなかった。
対応として適切なのはどれか。
a 経過観察
b 放射線療法
c 胃部分切除術
d 殺細胞性薬による治療
e 内分泌(ホルモン)薬による治療
KIT免疫染色
SMA免疫染色
転移のない、局所に限局している腫瘤なのだから切除すればよかろう、と思った方はそれで正解ですので次にいきましょう。異論ないです。あるいは、KITを含む免疫染色が提示されているのだから、診断はGISTに違いない。これも正解です。試験本番では、こういう時間を節約するテクニックと言うか大胆さも発揮して、合格点をしっかり取りましょう。
お作法のように、主訴とキーワードを拾っていきます。
主訴とキーワード
主訴:心窩部痛および持続する心窩部の違和感
キーワード:他臓器への転移を認めなかった、KITを含めた免疫染色が行われている
組織所見の確認(やや発展的です)
HE染色では、細長い細胞が流れるような配列を示しています。紡錘形細胞腫瘍です。細胞密度は高いです。この時点でGISTを疑いますが、ほかには平滑筋腫や神経鞘腫も鑑別にはあがると思います。高度異型はなさそうですが、肉腫を否定するのは難しいです。一応、GISTと平滑筋腫、神経鞘腫は形態である程度絞り込むことができると考えています。GISTは平滑筋腫や神経鞘腫よりも細胞密度が高く、くびれた(くねくねした、丸囲み)細胞形態を示しています。平滑筋腫では核の先端が鈍で、細胞質が好酸性(赤い)であり、消化管の神経鞘腫では、腫瘤の周囲にリンパ組織がみられることや、核が先細り状(コンマ状とも)であることなどから鑑別をしていきます。が、形態のみでなくKITを含めた免疫染色を行うのが通常です。
※遺伝子名はc-kitですがタンパク質の名前はKITです。免疫染色で確認するのは遺伝子ではなくタンパク質の発現なので、KIT免疫染色です。
GISTの免疫組織化学的形質(免疫染色のパターン)
GISTの形質(免疫染色の発現)として、典型的なパターンは、CD34 (+), KIT (+) です。ほか、SMA, desmin, S100などが(部分的に)陽性になることがあります。が、KITびまん性発現を優先しGISTと診断します。形態的にGISTを疑ってもCD34, KIT発現が確認できないときは、DOG-1免疫染色を行います。
GISTの治療と胃粘膜下腫瘍の切除方法(LECS)
治療に関して、病変が局所に限局している場合は、腫瘤の切除を行います。病変が手術で摘出しきれない、たとえば転移を伴う場合などは、基本的にはチロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ)を使用します。
通常、GISTで胃切除をするとき、腹腔内からは漿膜面しか見えませんので、外科医は病変を直接確認することはできません(漿膜面に突出するような腫瘤は除く)。余裕を持った切除ラインとするため、非腫瘍の胃壁をどうしても余分に切除することになります。
胃内視鏡を併用して腹腔鏡下胃部分切除をするLECS (laparoscopic and endoscopic cooperative surgery) では、胃壁を挟んで病変を内から、外からみることになるため、切除範囲をより小さくできます。手術に立ち会う内視鏡医の負担が増えますが、手術の制度を担保しつつ機能温存を図ることのできる術式と言えるでしょう。
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GISTの診断には、CD34, KITびまん性発現が重要である
GISTの治療は、切除か切除不能な場合はイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬を使用する