問題文と選択肢
71歳の女性。発熱を主訴に来院した。2週間前から38℃の発熱が出現し持続するため自宅近くの診療所を受診し、腎機能障害を指摘されたため紹介受診した。体温37.8℃。脈拍92/分、整。血圧148/78mmHg。頭頸部に異常を認めない。心音に異常を認めない。呼吸音は両側背部でfine cracklesを聴取する。関節の腫脹や圧痛を認めない。難聴を認めない。尿所見:蛋白2+、糖(-)、潜血2+、沈渣に赤血球10~20/HPF、白血球1~5/HPF、顆粒円柱、赤血球円柱を認める。血液所見:赤血球390万、Hb 11.6g/dL、Ht 36%、白血球8,500、血小板18万。血液生化学所見:総蛋白7.5g/dL、アルブミン2.8g/dL、IgG 1,260mg/dL(基準960~1,960)、IgA 240mg/dL(基準110~410)、IgM 105mg/dL(基準65~350)、AST 30U/L、ALT 21U/L、LD 205U/L(基準120~245)、ALP 75U/L(基準38~113)、γ-GT 34U/L(基準8~50)、尿素窒素48mg/dL、クレアチニン2.2mg/dL、尿酸8.1mg/dL、血糖88mg/dL、HbA1c 5.5%(基準4.6~6.2)、LDLコレステロール88mg/dL。免疫血清学所見:CRP 2.2mg/dL、リウマトイド因子40IU/mL(基準15以下)、MPO-ANCA 350U/mL(基準3.5未満)、PR3-ANCA 0.1U/mL(基準3.5未満)、抗核抗体陰性、血清補体価(CH50)62U/mL(基準30~40)。頭頸部CTに異常を認めないが、胸部CTで両側下葉を主体に間質性陰影を認める。腎生検のPAS染色標本を別に示す。
最も考えられる疾患はどれか。
a IgA血管炎
b 結節性多発動脈炎
c 顕微鏡的多発血管炎
d 多発血管炎性肉芽腫症
e クリオグロブリン血症性血管炎
主訴とキーワード
主訴:2週間持続する発熱
キーワード:高齢女性、2週間持続する発熱、頭頸部に異常を認めない、腎機能障害、fine crackles, 尿蛋白と尿潜血陽性、 クレアチニン2.2mg/dL、MPO-ANCA 350U/mL、両側下葉を主体に間質性陰影
選択肢はいずれも血管炎です。MPO-ANCA上昇を伴う血管炎を選べば良いので、c顕微鏡的多発血管炎が正解です。頭頚部に異常を伴わない、と記載がありますから、多発血管炎性肉芽腫症が否定されます。
自分の興味の濃淡に記事の内容が大きく左右されているのを自覚します。腎生検について病理医が見ない施設でしか働いたことがないからというのもあるでしょう。そんな事を言っていても始まらないので、画像を確認していきます。
組織像の確認
細胞性半月の形成が見られます。細胞性半月は疾患の活動性が高いことを意味します。ので、治療法の決定に関して重要な所見のひとつです。一方で、半月体は様々な疾患で見られるため、疾患の鑑別に役立つ所見ではありません(それでも、疾患ごとに頻度は異なります(文献あり))。
たとえば、半月体形成の頻度が高い疾患から順に見ていくと、抗GBM(glomerular basement membrane; 糸球体基底膜)病、ANCA関連血管炎、Lupus腎炎、IgA血管炎、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎等が挙げられます。糖尿病性でも生じることがあります。
P-ANCA (MPO-ANCA), C-ANCA (PR3-ANCA) について整理
MPO-ANCAの略称について
抗好中球細胞質抗体(antineutrophil cytoplasmic antibody; ANCA)
顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis; MPA)では好中球の細胞質に含まれる酵素であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)に対する自己抗体(MPO-ANCA, 別名P (perinuclear)-ANCA)が高率に検出されます。標的血管は小血管(毛細血管、細小動・静脈)です(難病情報センターより)。MPOは抗原、perinuclearはその局在についてつけられた名前ですね。
難病情報センターには、診断基準も掲載されていますので合わせてご確認ください。主な標的臓器は腎や肺であり、ほか、皮膚(紫斑)、消化管出血、多発単神経炎が生じます。それらを検索しうるような、MPO-ANCA陽性、CRP陽性(血管「炎」)、蛋白尿や血尿、Cre上昇、肺胞出血や間質性肺炎を確認するような胸部X線などを確認すれば、診断にたどり着けると思います。
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatous with polyangiitis; EGPA)もMPO-ANCAが半数の症例で陽性になりますが、好酸球浸潤を伴うことが特徴で、それを反映するように気管支喘息やアレルギー性鼻炎を合併することが特徴です。
多発血管炎性肉芽腫症(granulomatosis with polyangiitis; GPA)は従来ウェゲナー肉芽腫症と呼ばれていた疾患で、PR3-ANCA(※)陽性となる疾患ですが、日本ではMPO-ANCA陽性例が約半数だそうです。上気道の症状(鼻漏や鼻出血、鞍鼻、中耳炎、視力低下、咽頭喉頭潰瘍など)を伴うことが特徴です。
※PR3 (proteinase3)-ANCAはC-ANCA(cytoplasmic ANCA)とも呼ばれます。PR3は抗原、cytoplasmicはその局在についてつけられた名前ですね。わたしは学生のときはイマイチ整理しきれなかった記憶があります。
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半月体は疾患活動性を意味する(疾患特異的ではない)
MPO-ANCA (p-ANCA) 陽性となる疾患:MPA, EGPA, GPA
PR3-ANCA (c-ANCA) 陽性となる疾患:GPA