117D54  ベセスダシステムとLSIL/CIN1が検出された際の対応

問題文と選択肢

22歳の女性。初めて受けた子宮頸がん検診で異常を指摘され受診した。身長162cm、体重56kg。体温36.5℃。脈拍72/分、整。内診で子宮は正常大で可動性良好、両側付属器を触知しない。子宮腟部に肉眼的な異常を認めない。経腟超音波検査で異常を認めない。コルポスコピィで白色上皮を認めたため、同部の狙い組織診を実施したところ、軽度異形成(子宮頸部上皮内腫瘍)と診断された。

患者への説明として適切なのはどれか。

a 「MRI検査を行いましょう」

b 「円錐切除術を行いましょう」

c 「抗ウイルス薬を内服しましょう」

d 「子宮頸部細胞診を半年後に行いましょう」

e 「ヒトパピローマウイルス〈HPV〉ワクチンで治療をしましょう」

主訴とキーワード

主訴:なし(がん検診で異常を指摘された)

キーワード:狙い組織診で軽度異形成と診断された

子宮頚がん検診の運用について問われています。細胞診で異常が指摘された後、LSIL/CIN1の診断となった後の運用といった、かなり踏み込んだところが問われています。答えはdですが、産婦人科医や細胞検査士、検診(健診)センターで勤務などをしていないと実感湧きにくいと思います。わたし自身学生のときはイマイチわかりませんでした。

子宮頸部細胞診の判定とその対応

細胞診の判定は、ベセスダシステムに準じて行われます。日本産婦人科学会より、産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020が公開されており、細胞診の運用について記載があります(冊子上33ページから、ファイル全体では63ページから)。

さて、その実際を見ていきましょう。

NILM(陰性):非腫瘍性であり、炎症や微生物などの病変を含みます。異常なしの判定で次回がん検診(2年後)を受けます。

ASC-US(意義不明な異型扁平上皮細胞):軽度扁平上皮内病変の疑い(実際にはNILM-HSILを含む)。※ASC-USの対応は下記

LSIL(軽度扁平上皮内病変):HPV感染(一過性を含む)や軽度異形成を推定します。コルポスコピーと生検を受けます。

HSIL(高度扁平上皮内病変):中等度から高度異形成を含みます。コルポスコピーと生検を受けます。

SCC(扁平上皮癌):扁平上皮癌を考える細胞像がみられます。コルポスコピーと生検を受けます。

ASC-USの対応

1. High risk HPVの検査をする

1-1. HPV (-)なら、1年後の細胞診再検査

1-2. HPV (+)なら、コルポスコピーと生検(LSILと同様の扱い)

2. 6ヶ月、12ヶ月後の細胞診再検査

2-1. いずれも陰性なら通常の検診間隔でがん検診を受ける

2-2. ASC-US以上の判定が1回でも出たら、コルポスコピーと生検

3. いきなりコルポスコピーと生検も可

生検でSIL/CINが指摘されたら

LSIL/CIN1(軽度異形成)は6 か月ごとに細胞診±コルポスコピー

HSIL/CIN2(中等度異型成)は 3-6 か月ごとに細胞診とコルポスコピーを併用

※1-2年の経過観察中に消失しない場合や継続的な受診が難しい場合、本人の強い希望がある場合などは治療(円錐切除など)を選択しても良い

※HPVタイピングが行われた場合は、さらに方針が細分化されています。たとえば、high risk HPV陰性のCIN1は12ヶ月毎の細胞診でよく、high risk HPV (16, 18, 31, 33, 35, 45, 52, 58) 陽性のCIN2は妊娠女性以外であれば、レーザー蒸散や円錐切除などの治療を直ちに行うことも容認されます。

HSIL/CIN3(高度異形成)は治療の対象です。治療法には、円錐切除、それよりも低侵襲なLEEP(loop electrosurgical excision procedure)やレーザー蒸散があります。深い病変や広い病変、明らかな浸潤癌が疑われる場合は、円錐切除を選択するのが妥当です。

補)生検でSIL/CINが指摘されなかったら

1. HPV (+)なら、6ヶ月、12ヶ月後の細胞診再検査もしくはHPV検査→2-2と同じ対応

2. HPV (-)なら、1年後の細胞診再検査

選択肢の吟味

さて、この問題では細胞診で異常が指摘され、生検で軽度異形成(LSIL/CIN1)と診断されました。選択肢を見ていきます。

a 「MRI検査を行いましょう」:おそらく骨盤部のMRIと判断しますが、子宮頸癌(明らかな浸潤あり)と診断したときに、臨床病期(病変の広がり)をみるための検査です。軽度異形成はただちに治療を行う病変ではありませんので、誤りです。

b 「円錐切除術を行いましょう」:high risk HPV (+) のHSIL/CIN2か、HSIL/CIN3以上の病変が治療の対象ですので誤りです。

c 「抗ウイルス薬を内服しましょう」:現在のところ、HPVに対して有効な薬物は、ワクチン(予防)以外ありません。本当にそうなのかと確認するため調べてみたら、現在はおなじくHPVが原因で発症する尋常性疣贅に対する治験が行われているようです(キノファーマ)。肝炎ウイルスのように、HPVに対してワクチン以外のアプローチができるようになる日もそう遠くないのかもしれません。

d 「子宮頸部細胞診を半年後に行いましょう」:そのとおりです。LSIL/CIN1(軽度異形成)は6 か月ごとに細胞診±コルポスコピーで対応します。

e 「ヒトパピローマウイルス〈HPV〉ワクチンで治療をしましょう」:いま、ワクチンでできることはhigh risk HPV感染の「予防」です。残念ながら治療薬はいまのところありません。

HPVワクチンについて

簡易版(一般の方向け)医療従事者向けのリーフレットがあります(厚生労働省)。HPVワクチンは、小学校6年から高校1年相当の女子を対象に、定期接種(努力義務であり、インフルエンザワクチンなどと異なり任意接種ではない)が行われています。また、HPVワクチンは男性への接種も承認されました(2023年7月現在では任意接種で全額自己負担です)。というのも、子宮頸癌以外にも、HPVが引き起こす疾患は存在します。尖圭コンジローマはもちろん男性にも発生しますし、悪性腫瘍では肛門癌や陰茎癌、中咽頭癌もHPV関連が示唆されているものがあります。女性だけのワクチンではないということは、覚えておいて損はないでしょう。いずれは男性HPVワクチンが定期接種になるかもしれません。

Take home messages

定期試験や国家試験直前(になる度)にベセスダシステムは丸暗記しておくのが望ましいのでしょう

high risk HPV (16, 18, 31, 33, 35, 45, 52, 58)も覚えておくのが望ましい

HPVワクチンの扱い(定期接種、小学校6年から高校1年相当の女子を対象)を要確認。いずれは男性も公費負担になるかもしれません。