問題文と選択肢
33歳の女性(1妊0産)。下腹部痛と過多月経を主訴に来院した。月経周期は28日型、整、持続7日間。2年前から月経痛があり市販の鎮痛薬を服用している。4か月前から月経血量の増加と下腹部鈍痛を自覚したため受診した。3年前に流産のため子宮内容除去術を受けた。身長168cm、体重60kg。体温36.0℃。脈拍76/分、整。血圧110/74mmHg。内診で子宮は約10cmに腫大し、両側付属器は触知しない。Douglas窩の硬結を触知しない。血液所見:赤血球340万、Hb 9.4g/dL、Ht 32%、白血球6,400、血小板25万。血液生化学所見:総蛋白6.2g/dL、AST 20U/L、ALT 18U/L、LD 186U/L(基準124〜222)、CA125 106U/mL(基準35以下)。骨盤部単純MRIのT2強調矢状断像を別に示す。診断はどれか。
a 子宮筋腫
b 子宮肉腫
c 子宮腺筋症
d 子宮内膜増殖症
e 子宮内膜ポリープ
主訴とキーワード
妊娠歴のある30代女性の下腹部痛と過多月経、子宮の腫大、CA125高値
画像解説
子宮体部後壁が肥厚している。腫瘍としての境界は不明瞭である。肥厚した壁内には点状高信号(白いつぶつぶ)を認める。
組織像提示
画像下は子宮体部の漿膜側(深部)です。子宮体部が厚くなっているので、1枚の標本に子宮体部が収まらず、表層にある既存の子宮内膜は確認できません。まだらに青い領域がうかがえます。
深部の青い領域を拡大すると、子宮体部筋層内に子宮内膜間質と子宮内膜腺が確認できます。筋層内に内膜腺は本来無いものです。
子宮腺筋症とは
上記の画像と組織像を呈するものを子宮腺筋症といいます。子宮内膜腺が子宮体部筋層に侵入することによると考えられています。月経過多や月経困難の原因となることがあります。後述する子宮内膜症とは異なり、癌化するとは明言されていません。
※どんな疾患にも言えることですが、実際の診療などでは、子宮腺筋症があることで他の疾患の存在が否定されるわけではないことに留意してください。つまり、たとえば、「子宮腺筋症があれば子宮体癌がない」ではない。
子宮内膜症とは
本来の子宮内膜組織と連続しない部分に、子宮内膜が出現する状態を子宮内膜症といいます。卵巣などの骨盤内臓器の表面(漿膜側)に好発します。卵巣では子宮内膜症性嚢胞のかたちで見られることが多いです。問題文では、付属器を触知したり、ダグラス窩に硬結を触れたり圧痛を伴うなどの記載があると思います。
子宮内膜症の管理と注意点
子宮内膜症の管理としては、子宮内膜症自体は癌ではありませんが、悪性腫瘍の発生母地となる可能性があるので切除や摘出が望ましいとされています。それとは別に、子宮内膜症はリンパ組織内や消化管の漿膜側に生じることもあるので、リンパ節転移や癌の播種と誤認しない(特に病理診断において)ことに注意が必要です。
Take home messages
子宮体部筋層の肥厚と内部の点状高信号(MRI, T2強調)は子宮腺筋症を考える
画像所見を反映して、組織像では子宮体部筋層内に子宮内膜がみられる
子宮腺筋症は月経過多や月経困難の原因となることがある
補足、CA125高値を示す病態
消化器および婦人科癌で高値を示すが、良性疾患でも高値を示す。癌性腹膜炎のマーカーとされているが、良性の腹膜炎でも高値を示す。